病院の検査の基礎知識

膣や亀頭、陰茎、肛門に尖ったイボやブツブツが現れる尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマは、セックスや類似性行為(オーラルセックスやアナルセックスなど)を行う際に、ヒトパピローマウイルス(HPV:ヒト乳頭腫ウイルス)が皮膚や粘膜の小さな傷から侵入・感染することで、ペニスや膣、肛門の周囲などに複数のイボができる感染症です。

再発率が高い性病です

ヒトパピローマウイルスは今日までに100種類を超える遺伝子型が発見されていますが、尖圭コンジローマを引き起こすのは6型と11型です。ヒトパピローマウイルスは「良性型」と「悪性型」に分類され、尖圭コンジローマは主に良性型のウイルスによって発症しますが、ごく稀に発症者から悪性型のウイルスが検出されることもあります。

HPVの分類(低リスク型と高リスク型)

悪性型のウイルスは男性では陰茎がん、女性では子宮頸がんの原因になるので要注意です。なかでもヒトパピローマウイルスの16型と18型は日本人の子宮頸がんの原因の約70%を占めています。

尖圭コンジローマはウイルス感染後、平均で3ヶ月程度(最長で8ヶ月)の潜伏期間を経て、「先端の尖った乳頭」や「鶏の鶏冠(とさか)」、「カリフラワー」などと表現される1〜3mm程度のイボイボが現れます。イボイボの色は白、ピンク、黒などさまざまです。

発症部位として多いのは、男性ではペニスの亀頭、亀頭と陰茎体の境目、亀頭を覆う包皮の内側、陰嚢(睾丸を包む袋)、女性では膣、子宮頚部、大小陰唇、会陰などです。男女共通にできやすい場所としては肛門、肛門の中、尿道口が上げられます。肛門の中の発症は、同性愛者によるアナルセックスが症例の多くを占めています。オーラルセックスを日常的に行う人の場合、口腔への感染も見られます。

視覚的にその発症がわかりやすい尖圭コンジローマですが、自覚症状はほとんどありません。稀に膣カンジダ症膣トリコモナス症クラミジア感染症などの性病と合併して、おりものの増加や感染部位のかゆみ、といった症状が現れることもあります。

妊娠している女性が治療を放置していると、産道で胎児が感染してしまう可能性があります。しかし、母子感染はごく稀ですので、外陰部に小さな病巣がある程度では通常の分娩が行われます。膣内に病巣が多発していたり、通常の分娩が困難なほど病巣が大きい場合は、帝王切開が行われます。不安な方は産婦人科の医師に相談してみましょう。

口論をする彼氏と彼女

尖圭コンジローマはカップルの双方が感染していることが多く、どちらか一方が感染していれば、9ヶ月以内にパートナーも感染する確率は66%とされています。どちらの感染が明らかになった場合は、パートナーも必ず医療機関で検査を受けるようにしましょう。そうしないと、いつまで経っても再発してしまいます。

イボイボという病変部の特徴があるため、医師の視診だけで診断はつきますが、膣内や子宮頚部などの病巣の範囲を確認するためにはコルポスコピーによる観察が、肛門では肛門鏡による内部観察が必要となります。

尖圭コンジローマとよく似たイボイボが現れる生理的な現象として、フォアダイス(脂肪の粒)、膣前庭乳頭症があります。いずれも病気ではないので心配いりませんが、尖圭コンジローマと誤って診断されて、不必要な薬を処方されるケースが稀にあるため注意が必要です。

イミキモド(ベセルナクリーム5%)の登場で治療の際の患者負担が軽減

尖圭コンジローマの治療法には、液体窒素でイボイボを凍結壊死させる「凍結療法」、尖圭コンジローマ治療薬であるイミキモド(商品名:ベセルナクリーム5%)の外用、電気メスによるイボイボの切除などがあります。

ベセルナクリーム

液体窒素や電気メス等を使用した外科療法は、治療効果が高い反面、強い痛みが生じたり、場合によっては患部がただれ、瘢痕が残る症例も少なくなくありませんでした。さらに入院が必要になるため、患者さんの負担が大きいことも懸念されていました。

2007年に日本初の尖圭コンジローマ治療薬として承認されたイミキモド(商品名:ベセルナクリーム5%)は、患部に直接クリームを塗るだけで、イボイボを消失させることができるうえ、外科療法でネックとなっていた痛みをともなうことありません。そのため現在では多くの場合、尖圭コンジローマにはまずイミキモドによる治療が選択されます。

治療開始時点で、既に他の部位にウイルスが感染していることも考慮して、治療が完了した後もウイルスの平均潜伏期間である3ヶ月は通院して、経過を観察してもらう必要があります。3ヶ月以内の再発率は25%(日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン」より)と高くなっており、割合としてはパートナーからの再感染よりも、自身の再発のほうが多くなっています。

尖圭コンジローマは、コンドームを正しく使用することである程度予防することができます。「ある程度」という表現になるのは、コンジローマは肛門や陰嚢(いわゆる玉袋)、会陰部などコンドームでカバーしきれない部位にも発症するためです。特に外陰部が感染部位の場合、剥離した上皮に触れることで、他の部位やパートナーに移ってしまうことが多いので注意が必要です。


 
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