病院の検査の基礎知識

ペニスや外陰部の水ぶくれ、潰瘍(ただれ)は性器ヘルペスの可能性

性器ヘルペスは、クラミジア感染症淋病に次いで感染者数の多い性病で、主にセックスを介して単純ヘルペスウイルス(HSV)に感染することで、性器や肛門に赤いブツブツができ、水ぶくれになり、やがて破れて潰瘍(ただれ)などの症状が現れます。

再発率が特に高い性病

単純ヘルペスウイルスには、主に口唇に症状が現れる単純ヘルペス1型(HSV-1)と、主に性器を中心とした下半身に症状が現れる単純ヘルペス2型(HSV-2)の2つのタイプがありますが、下半身の症状を訴える感染者から1型が検出されることも少なくないため、この分類はそれほど厳密ではありません。

HSVの感染ルート

このような状況が起きるのは、上図のようにフェラ(舌や唇でペニスを愛撫すること)が深く関係しています。すなわち、女性の口唇に感染しているウイルスがフェラを介して男性の性器に移ったり、男性の性器に感染しているウイルスがフェラをした女性の口唇に移ったりするためです。

健康な人に比べて、外陰部の皮膚炎、アトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下している人はヘルペスウイルスに感染しやすい傾向にあります。バリア機能が低下しているため、ヘルペスだけでなくクラミジアや淋菌、梅毒など他の性病に感染するリスクも上昇します。

単純ヘルペスウイルスは感染して直ぐに症状が現れるのではなく、通常は体の神経節にじっと潜伏しています。そして、抗生物質の投与、風邪、過労、ストレス、月経前などで免疫力が低下すると活動を活発化させて、神経に沿って皮膚や粘膜に移動して、不快な症状を引き起こします

一度ヘルペスに感染すると完全に駆除できないため、再発を繰り返します

性器ヘルペスの大きな特徴として、後述する抗ヘルペスウイルス薬で治療してもウイルスを死滅させることはできないという点が挙げられます。ウイルスは神経節などに潜伏して生息を続け、再発を繰り返します。男女ともに1年以内の再発率は約80%と大変高くなっています。

症状の完治は困難です

初めて発症した際の症状は比較的強く現れますが、再発時の症状はそれほど重くありません。しかし、治療→再発→治療のサイクルを繰り返す人にとって、その肉体的・精神的な苦痛は決して小さくありません。

女性で初めて性器ヘルペスを発症する場合、セックスでの感染から2〜10日の潜伏期間を経て、膣・外陰部、肛門の周囲、時には子宮頚管や膀胱にまで水ぶくれ(写真参照)や潰瘍(ただれ)ができます。38℃以上の高熱が出ることもあります。

ヘルペスの症状の写真

患部は強い痛みを伴ない、排尿が困難だったり、歩行にも支障をきたすことがあります。大抵の場合、太もものリンパ節が腫れたり、圧痛があります。パートナーの男性が既に感染している場合、オーラルセックスやキスを通じて口に発症する可能性もあります。

再発時の症状はそれほど重くなく、再発の兆候として太ももを中心とした下肢に神経痛に似た痛み、あるいは外陰部のムズムズするような違和感が現れた後に、性器、お尻、太もも周辺に1個から数個程度の水ぶくれや潰瘍ができます。

1年以内に約80%の女性が再発しますが、その頻度は個人差が大きく、月に2〜3回と非常に多い人もいれば、年に1回程度の人もいます。

なお性器ヘルペスを発症している妊婦さんは母子感染を予防するため、帝王切開で胎児を分娩することが勧められています。

男性が初めて発症する場合、外陰部または口唇などから単純ヘルペスウイルスが放出されている女性とのセックスを行ってから2〜10日程度の潜伏期間を経て、ペニスの亀頭や陰茎に1〜2mmくらいの大きさの水ぶくれがたくさんできて、かゆみや違和感を伴います。数日経つと水ぶくれが自然に破れて潰瘍を形成します。

症状が激しく現れるの発症から1週間前後で、太もものリンパ節が晴れ上がったり、ペニスの先から膿が出たりします。同性愛者によるアナルセックスでは、肛門の周囲や直腸にも水ぶくれや潰瘍ができます。

再発時にはお尻や太ももの周囲に水ぶくれやただれが見られますが、女性の再発時と同様に症状はそれほど重くありません。稀に全身の倦怠感や、下肢の違和感などの症状が1週間ほど続くことがあります。

HSVの増殖を抑える抗ヘルペスウイルス薬(ゾビラックス、バルトレックス)

性器ヘルペスの治療は、初めて発症した人の場合、単純ヘルペスウイルス(HSV)の増殖を抑える抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビル(商品名:ゾビラックス錠200mg)やバラシクロビル(商品名:バルトレックス錠500mg)を経口投与することで10日ほどで治癒します。

坑ヘルペスウイルス薬

症状が比較的軽い場合は、5%アシクロビル軟膏(商品名:ゾビラックス軟膏)、または3%ビダラビン軟膏(商品名:アラセナA軟膏)を1日数回塗布します。逆に免疫不全を伴う重症例には点滴用のアシクロビル(商品名:ゾビラックス点滴静注用)が使用されます。

再発時にもゾビラックス錠200mg、バルトレックス錠500mgが使用されますが、下肢の痛みや外陰部の違和感など再発の前兆が現れたときに使用すると、再発自体を予防できることがあります。

年に6回以上の再発を繰り返す重症患者に対しては、精神的苦痛の緩和、パートナーへの感染予防などの観点から、抗ヘルペスウイルス薬を1年間継続投与する抑制療法が考慮されます。

性器ヘルペスはコンドームがカバーするペニス以外の部位(肛門、お尻、太もも)にも発症し、皮膚の接触によって感染する可能性があるため、セックス時のコンドームの着用だけでは予防しきれません。性器ヘルペスの症状が現れているときのセックスは控えましょう。


 
Copyright 2023 病院の検査の基礎知識 All Rights Reserved.