病院の検査の基礎知識

乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で感染性胃腸炎を起こすノロウイルス

毎年、冬になると新聞やテレビのニュース等でノロウイルスによる食中毒事件が連日のように報道されています。日本人は欧米人に比べると、食事の際の手洗いが徹底されているので、欧米ほどノロウイルスの感染者数は多くないと考えられていますが、食中毒患者の約半数はノロウイルスの感染が原因となっていることから、ノロウイルス対策が重要となってきています。

小児・高齢者は症状が悪化しやすい

ノロウイルス食中毒は突然起きるものではなく、以下の4つのタイプがあります。いずれの場合もノロウイルス感染者が汚染源となっていることから、ノロウイルスによる食中毒を予防するためには、ノロウイルスに感染しないこととなります。

  • ノロウイルスに汚染された二枚貝を食べる
  • ノロウイルス感染者が、食品あるいは調理器具に触れて汚染する
  • ノロウイルスを含んだ嘔吐物・便が乾燥して、ウイルスが空中を漂い、食品等を汚染する
  • 簡易水道、井戸水がノロウイルスに汚染される

ノロウイルスは子供から高齢者まで幅広い年齢層で「感染性胃腸炎」を引き起こします。感染性胃腸炎は、嘔吐と下痢、脱水症状、発熱などの症状が病原体によって起きていると診断された際に付けられる診断名です。ノロウイルスのほか、ロタウイルス、アデノウイルス、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌(O157など)、サルモネラ、カンピロバクターなど多くの病原体でおきます。

感染性胃腸炎の患者数は全国の約3,000箇所の小児科で調べられており、毎週厚生労働省に報告されています。公表されているデータによると毎年約90万人が感染性胃腸炎と診断されており、そのうちノロウイルス感染を原因とする患者数は正確に割合はわからないものの、23%程度と考えられています。

この数字は小児科の定点医療機関での数字ですので、実際には毎年約100万人の小児がノロウイルスによる感染性胃腸炎に罹患していると推定されています。

一方、成人、高齢者における感染性胃腸炎の患者数はわかりません。しかし、小児のほか学生、成人、高齢者に至るまであらゆる年齢層で罹患しており、数ある感染症の中で最も患者数が多いとされています。参考までにアメリカでは、ノロウイルスによる感染性胃腸炎の患者数は毎年人口の約10%(2,000万人)と報告されています。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎患者は、例年10月から増加して、11・12月にピークを迎えます。患者は翌年の3月くらいまで多く見られ、その後は徐々に減少していきます。そして感染性胃腸炎患者の増加にほぼ比例する形で、食中毒も発生しています。ノロウイルスによる食中毒が多発するのは11月から3月までの間で、感染性胃腸炎患者の増加に伴い食品取扱者による食中毒が発生しています。

嘔吐する母親

口から体内に入ったノロウイルスは、小腸の上皮細胞で感染・増殖します。一般的に12〜72時間の潜伏期間を経て、腹痛、下痢、吐気、嘔吐が起こります。なかでも強烈な嘔吐が突然やってくるのが、ノロウイルスの大きな特徴です。嘔吐はトイレに駆け込む時間もない程、突然やってくるので、室内を汚染させやすく、このことが感染拡大の防止を妨げる大きな要因となっています。

嘔吐物からは大量のノロウイルスが排出されているので、嘔吐物を介しての感染拡大が高齢者施設、幼稚園、保育所などで毎年、起こっています。一般的に嘔吐は子供と高齢者に多く、下痢は成人と高齢者で高率に見られます。下痢は水のような状態で、重症例になると1日中数回もトイレに行きますが、大抵は2〜3回で治まります。

ノロウイルスは人以外では増殖することができません。そのため、患者の糞便あるいは吐瀉物を採取して、そこに含まれるノロウイルス遺伝子を増やして目に見えるようにしてウイルスの存在を見出す方法(遺伝子増幅法)と、ノロウイルス感染者の糞便あるいは吐瀉物中のウイルスと抗体の結合物を作り、目に見えるようにして診断する方法(抗原抗体反応の検査)があります。

遺伝子増幅法としては、主に「RT-PCR法」と「リアルタイムPCR法」の2つが行われています。両検査は結果が得られるまで2〜5時間を要し、検査材料1gあたり1,000〜1万個のウイルス量で「陽性」となります。遺伝子を増やして診断する方法ですので、検出感度が高いのがメリットです。

一方、抗原抗体反応で行う検査法としては、主に「ELISA法」と「イムノクロマト法」などがあります。いずれの検査法も、30分以内の短時間で結果を得ることができるのがメリットですが、検出感度が低く、検査材料1g中に100万個以上存在したときに「陽性」と判定され、100万個未満のときは「陰性」と判定されてしまいます。

また、検査に用いた抗体と結合しないノロウイルス遺伝子型であった場合、たとえウイルス量が100万個以上存在していたとしても「陰性」と判定されてしまいます。実際に「陰性」と判定された調理従事者が、食材をノロウイルスで汚染させてしまい、食中毒を起こしたこともありました。

なお、診療報酬の算定方法の一部改正が行われ、平成24年4月1日からノロウイルスの検査が保険適用されました。保険適用となるのは、ノロウイルス感染症が疑われる場合で、患者が@3歳未満、A65歳以上、B悪性腫瘍の診断が確定している、などに該当する場合です。

ノロウイルス食中毒を予防するためには手洗い、食品の加熱が重要

ノロウイルスに感染しても、直接効果のある薬はまだ開発に至っていません。また、ノロウイルスには遺伝子型が非常に多く存在するため、ワクチンの開発は難しく、ウイルス増殖もできないため、完成の目処はたっていません。

脱水症状を回復させる

治療の基本は、下痢で失われた水分とミネラルを補給することです。スポーツドリンクはミネラル分が強いので、水で3倍程度に薄めてから少量ずつ飲むのがよいでしょう。嘔吐が激しくて水分補給もままならないときは、脱水症状が酷くなる前に医療機関を受診しましょう。

ウイルスの体外排出を遅らせるという理由で、通常はノロウイルス感染に対する下痢止めの使用は見送られますが、下痢症状が強くまた長時間にわたる場合は医師の指示で下痢止めが処方されるときもあります。自己判断で使用せずに必ず医師の指示を守ってください。

ノロウイルスによる食中毒を予防するために最も効果的なのは、食品を十分に加熱してノロウイルスを不活化する(感染性を失わせる)ことです。食品を中心部まで85度で1分間の加熱を行えば、仮にウイルスに汚染されていた食品を食べても食中毒にはなりません。

食材の中心温度を85度まで上げられない場合は、80度で5分、75度では10分以上の加熱でノロウイルスは不活化されるとされています。調理の際には中心温度を測り、過熱が確実であることを確認してください。

ノロウイルスは感染力が強く、汚染した手指を介して、直接・間接を問わず極わずかなウイルスが口に入っただけでも感染します。それを防ぐには、手に付着したウイルスを汚れとともに確実洗い流すことです。調理従事者は衛生的手洗いを頻繁に行うことにより、手荒れを起こしやすく、その部分に細菌やウイルスが付着しやすくなるので注意が必要です。

手洗いは、ノロウイルスを含め多くの病原体が手に付着する可能性があるときに行います。具体的にはトイレ後、食事前、調理前、配膳前、病原体の汚染度の高い食品(肉類、魚介類、野菜、生卵等)に触れたとき、掃除や廃棄物処理を行った後などです。

保育園や幼稚園など抵抗力の弱い子供が多く集まる施設では、洗うことができる玩具などは定期的に水洗いし、その後、日光消毒しましょう。洗えないものは次亜塩素酸ナトリウム(200ppm)で拭いて、水拭きしていから、日光消毒しましょう。加熱できるものは熱湯をかけるか、煮沸消毒をします。微酸性電解水で拭いても構いません。

調理台・調理器具は洗剤で洗った後、次亜塩素酸ナトリウム溶液(200ppm)に浸してから水洗いをして、よく乾燥させます。または、微酸性電解水で洗い流してもよいです。調理器具、食器、ふきんなどの加熱できるものは熱湯消毒または煮沸して、乾燥させます。


 
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