病院の検査の基礎知識

2016年4月から内視鏡検査(胃カメラ)が追加された胃がん検診

胃がんは、胃の壁の一番内腔側にある粘膜に発生するがんで、50歳代から増加し、高齢になるほど高くなっています。過去1年間に新たに胃がんを発症した人は133,000人、死亡数は49,400人(国立がん研究センター「2015年のがん統計予測」より)となっています。従来、胃がんは日本人に最も多いがんでしたが、現在は大腸がん肺がんに次ぐ第3位となっています。

ピロリ菌の感染が発生に関与

依然として胃がんの発症者数は多いものの、以前に比べると死亡率は減少傾向にあります。この背景にはX線検査や内視鏡検査の診断技術、根治を目指す手術が大きな進化を遂げたことが関係しているとされています。

また、胃がんの大きな原因とされる「ピロリ菌」の感染割合は高齢者ほど高く、若い人ほど低くなっていること、そして、ピロリ菌の除菌治療が2013年から保険適用となり、推定で年間150万人が除菌治療を受けていることから、今後は胃がんの罹患率も低下していくと予測されています。

胃がんは、早期の段階では自覚症状はほとんどありません。胃の不快感、痛み、胸焼けなどが続くことがありますが、ほとんどは胃がんに合併して起こる胃炎や胃潰瘍によるものとなっています。

がんが進行してくると、食欲不振、体重減少、貧血、疲れやすさなどの症状が現れます。胃の入り口や出口にがんができると、胸のつかえ、食後の胃もたれやゲップ、嘔吐などが現れます。がんの部分が出血を起こすと、黒い便が出ることもあります。

診断、治療技術が進歩した現在、がんが胃の内側の粘膜下層までに留まっている状態、いわゆる「早期胃がん」で発見できれば、治癒率は90%を超えるようになりました。胃の粘膜に発生したがんが粘膜下層に進行するまでは、おおよそ2〜3年かかるとされています。

したがって、40歳以上の方は、市区町村が実施している「胃がん検診」を受診して、がんの早期発見・治療に努めることが大切となりますが、2013年の胃がん検診の受診率は39.6%(国立がん研究センターまとめ)に過ぎません。

胃がん検診の受診率が伸び悩む原因の一つとして、胃部X線検査(バリウム検査)が「どうしても嫌!」という人が多いことが挙げられています。しかし、厚労省は市区町村が実施する「胃がん検診の指針」を改定し、2016年4月からは胃部X線検査だけでなく、胃内視鏡検査(胃カメラ)も選択できるようになりました。

胃部X線検査は40歳以上で年1回の受診となっていますが、内視鏡検査は50歳以上で2年に1回の受診となります。内視鏡を使用した検診は精度が高く、先行実施している一部の自治体では受診率の向上にもつながっています。

これにより多くの人が心身の負担が少ない内視鏡検査を受けられるようになると期待されています。以下は胃がん検診の検査内容です。

胃部X線検査(バリウム検査)
胃の蠕動運動(ぜんどううんどう:食物を送り出すための"うねる"ような動き)を抑える注射をした後、水に溶けると炭酸ガスを発生する発泡剤を飲んで胃を膨らませます。

放射線室の検査風景

そしてバリウムを飲んでから、レントゲン透視台に横になってX線撮影を行い、シルエットに現われる凹凸で胃の粘膜の異常を発見します。胃の粘膜にバリウムを万遍なくコーティングさせるために、検査中はレントゲン技師の指示に従って、仰向けやうつ伏せなど体位変換をする必要があります。

体位を変えることでバリウムの量と空気の量を微妙に変える「二重造影法」によって、半透明の胃袋のX線写真を撮影することができ、胃壁粘膜の微細な病変も調べることができるのです。この二重造影法は、日本で独自に開発された診断法です。

胃の中を空っぽにして撮影をしやすくするため、検査前日の夕食以降は、食事を抜く必要があります。検査後は体内でバリウムが固まらないうちに下剤を飲んで排便をする必要があります。

安全性の高い検査ですが、受診者の心身の負担も少なくなく、また異常が発見された場合は胃内視鏡検査で再確認・生検を行う必要があるので、個人で任意の医療機関で受診する自主検診の場合、最初から胃内視鏡検査を選択することのほうが多くなっています。

胃内視鏡検査(胃カメラ)
先端部にライトとCCD(光を検出する撮影素子)が取り付けられた内視鏡を口から胃の中へ入れて、胃の内部を直接観察する検査です。胃の粘膜のわずかな変化も鮮明な画像で映し出すことができ、検査中に特殊な色素液を散布することで凹凸が少ない病変も発見できます。

消化器内視鏡学会の専門医

検査中に発見された潰瘍やポリープなどをその場で切除したり、細胞を採取したりすることができます。また、内視鏡が捉えた自分の胃の画像をリアルタイムで見ることができるのも、胃内視鏡検査ならではのメリットです。

検査前の準備として、喉の苦痛を和らげるために局所麻酔剤を使用したり、胃の活動を抑える注射をします。胃部X線検査と同様、検査前日の夕食以降は何も食べることはできません。

口から入れた内視鏡による「オエッ!!!」という咽頭反射が苦手な人でも胃内視鏡検査が受けられるように、近年は鼻から内視鏡を挿入する「経鼻内視鏡」も普及しています。口から挿入する内視鏡と違って舌を圧迫しないので、検査中も医師と会話を行うことができ、リラックスして検査に臨めるのが最大のメリットです。

初期の経鼻内視鏡は経口内視鏡に比べて、画質が劣ることが課題とされていましたが、2011年以降に登場した機種は、画質、解像度のいずれも経口内視鏡と同等となっています。

ただし、胃がん検診に内視鏡を導入するに際しては課題もあります。それは人材の不足です。従来のX線検査は放射線技師と医師が行うことができましたが、内視鏡の操作をできるのは医師だけです。技術習得には個人差はあるものの、若手を育成しても最低1年以上はかかるとされています。

内視鏡医は技術の格差がかなり大きいため、任意の自己検診として胃がん検診を希望する方は、胃がん発見の技術認定を受けている、「消化器内視鏡学会専門医」が在籍している医療機関を選ぶとよいでしょう。ただし、自己検診の場合、市区町村の集団検診と異なり、検査費用は全額自己負担となります。

また、X線検査と比較して心身への負担が小さいとされる内視鏡検査ですが、検査時に内視鏡が胃に当たるなどして出血、穿孔(せんこう:胃に穴が開くこと)、ショックなどを起こす人が、0.005%(10万人に5人の割合)存在することを頭の片隅に入れておきましょう。

胃がん検診を受けた人の約10%は「要精密検査」という判定になりますが、多くは胃潰瘍、ポリープ、胃炎などの胃の病気で、実際にがんと診断される人はごくわずかです。だからといって、精密検査を受けないのは禁物です。「要精密検査」の判定を受けていながら、検査を受けない人も約16〜20%ほどいるという調査報告もあります。

また、症状がない、あるいは気になっていた胃の症状が消えたという理由で精密検査をパスするのも危険です。実際、胃がんの治療を受けている約50%の人は、自覚症状がない段階で発見された早期がんです。

なお胃がん検診は、一部公費負担で受診することができますので、自己負担は500円〜くらいです。また、お住まいの市区町村によっては、無料クーポン券を配布しているところもあります。

血液検査と内視鏡検査を組わせた「胃がんリスク検診」が注目されています

横須賀市(神奈川県)、品川区・足立区、三鷹市(いずれも東京都)などでは、ピロリ菌の感染の有無を調べる「ピロリ菌抗体検査」と胃粘膜の萎縮度を調べる「ペプシノゲン検査」という2つの血液検査を併用し、必要な人だけが定期的に内視鏡検査を受ける、「胃がんリスク検診」(通称:ABC検診)を導入しています。

血液検査の様子

横須賀市では従来のバリウム検査で数年間、胃がんの発見がゼロとなっていましたが、このリスク検診に切り替えてから1年間で108名の胃がんを発見することができたことから、大きな注目を集めています。ピロリ菌の感染がなく、胃粘膜の萎縮も見られない人は血液検査だけですむので、心身の負担が少ないうえ、検査コストが低く抑えられるのもメリットです。

厚生労働省は、死亡率減少効果を科学的に証明する十分なデータが不足しているとして、胃がんリスク検診を「胃がん検診の指針」に加えていませんが、他の自治体でも導入するところがでてくるかもしれません。


 
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