病院の検査の基礎知識

春が流行のピーク!ロタウイルス感染症は乳幼児で重症化しやすい

ロタウイルスは、下痢や嘔吐などの症状が現れる感染性胃腸炎を引き起こすウイルスです。同じく胃腸炎の原因となるノロウイルスが毎年秋から冬にかけて流行するのに対し、ロタウイルスは1月くらいから流行しはじめ、3〜4月にピークがやってきます。

電子顕微鏡の拡大像

ちなみにロタウイルスの「ロタ」とは、ラテン語で「車輪」を意味しており、ウイルスが写真のように車輪を連想させる(…そう見えますかね?)ためこのように命名されました。

胃腸炎の原因ウイルスとしてはノロウイルスが最も有名ですが、5歳以下の乳幼児が感染しやすいのはロタウイルスのほうで、全世界の子供の95%は5歳までに1回は感染するとされています。全世界で毎年約50万人の乳幼児が亡くなっていますが、その大半は医療体制が整っていない開発途上国の乳幼児で、日本国内における死亡例はまれです。

ロタウイルスに感染すると2〜4日程度の潜伏期間を経て、お米のとぎ汁ような白っぽい下痢や嘔吐を繰り返します。その結果、体内の水分が失われて脱水症状になることもあります。3人に1人は39℃以上の高熱を出します。脳炎を起こして痙攣や意識障害になることもあり、麻痺が残る子供もいます。

ノロウイルスと同様、ロタウイルスも感染力が非常に強く、10個程度のわずかなウイルスでも感染が成立してしまいます。そのため、保育園で集団感染は毎年のように発生しています。最も感染しやすいのは乳幼児ですが、看病を行う母親が嘔吐物や便に触れて二次感染し、家庭内で感染が広がることもあるため、大人も油断禁物です。

ロタウイルスの感染の有無は症状だけでは判断がつかないので、医師が検査が必要と判断した場合は、便を採取してウイルス抗原を検出する迅速診断検査(イムノクロマト法)などが行われます。この検査法の最大のメリットは、15〜20分という短時間で結果が判明する点ですが、ウイルスの「型」によっては検出できないこともあります。健康保険は適用されます。

ロタウイルスに有効な抗ウイルス剤は開発に至っていません。そのため、脱水や嘔吐などの症状を軽くする対症療法が唯一の治療法となります。脱水症状への対処が遅れると重症化を招きやすく、点滴による治療や入院が必要となります。日本では毎年約80万人がロタウイルスによる感染胃腸炎で医療機関を受診し、最大で約8万人が重症のため入院していると推計されています。

下痢や嘔吐の症状がみられたら、経口補水液、温めたミルク、湯冷ましなどで十分に水分を補給しましょう。乳幼児の場合、嘔吐しないように少量ずつ(50〜100cc程度)与えるのがポイントです。下痢が酷いからといって自己判断で下痢止めを服用させると、ウイルスが体外に排出されにくくなって逆効果となります。

ロタウイルスの予防には、オムツや嘔吐物の適切な処理と手洗いが重要となります。オムツを交換したり嘔吐物を処理する際はビニール手袋を着用し、ポリ袋に入れてしっかりと口を閉じるようにします。素手で作業を行うと、手や爪の間にウイルスが数億個も付着してしまいます。

多くのウイルスはアルコール消毒が有効なのですが、ロタウイルスはアルコールに強いので、手洗いは石鹸と流水で念入りに行う必要があります。

日本では乳幼児を対象としたワクチン(ロタリックス、ロタテック)の任意接種があり、ワクチンを接種することで重症化を90%予防できるとされています。ただし、ワクチンが導入してから日が浅く任意接種ということもあり、接種率はまだ低く、患者数の減少にはつながっていません。


 
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