病院の検査の基礎知識

2016年の感染者数は4,000人を突破!今こそ大切な梅毒血清反応

梅毒にかかっているかどうかを調べる検査です。梅毒はトレポネーマ・パリダム(T.p)という病原微生物によって引き起こされる病気で、陰部のしこりやリンパ節の腫れ、皮膚の淡紅色の発疹、最終的には心臓や脳、脊髄などがおかされて死に至ることもあります。

梅毒トレポネーマ

一昔前は性感染症(STD)の代表的疾患だった梅毒ですが、抗生物質の普及によって以前のように恐れられることはなくなりました。しかし、国立感染症研究所の年間報告数を見ると、2010年から患者数は増加傾向にあり、2015年の梅毒患者数は過去最高の2,638人を記録しました。

2010年の梅毒患者数は621人ですので、この5年間で感染が急速に拡大しているのがおわかりになると思います。(追記:2016年は11月27日の時点で既に4,077人となっており、年間4,400人のペースです)

従来、梅毒の患者は男性の同性愛者が中心でしたが、近年は異性間のセックスによる感染も増加しています。年代別に見てみると、男性は40〜50代、女性は10〜20代での増加が目立っています。特に20代前半の女性の感染者の増加が顕著となっており、2014年に比べて約3倍増となっています。

患者急増を伝えるニュース

この事態を受けて、厚生労働省は梅毒の注意喚起を促す女性向けのパンフレットを作成し、セックスの際にコンドームを使用すること、感染を疑った場合にはパートナーと一緒に検査を受けることを推奨しています。

梅毒は感染後3週間くらいすると、性器や口の周囲に軟骨のような硬いしこりができます。しこりに痛みはありません。表面がただれて潰瘍を形成することもありますが、放置していても5〜6週間で自然に消失します。

しかし、表面上は症状は消失しても、体内では梅毒の病原菌が増え続けています。「なんか変な症状がでたけど自然に治ったみたい」と勘違いしてセックスをしたり、風俗を利用すると、本人が知らないまま梅毒の感染を拡大させてしまいます。

梅毒の初期症状の写真

感染から3か月ほど経過すると病原菌が血液を介して全身に広がるため、手足、胸や背中、手のひらなどに赤い発疹(写真参照)が現れます。また、微熱や全身の倦怠感、脱毛、リンパ節の腫れなどの症状を伴うこともあります。

オーラルセックスを行うカップルが増えている近年は、口唇、舌、喉に病変が現れる女性も少なくありません。喉に感染する性感染症としては、クラミジア淋病が増加傾向にありますが、症状が現れにくいため感染に気づかないないこともあります。

一方、梅毒は「喉が腫れて痛い」、「舌や喉の粘膜に白っぽい大きな斑点が複数ある」、「食事中に喉に違和感がある」などの異常がきっかけとなり、医療機関を受診して検査を受けたところ梅毒だったというケースもしばしばです。

妊婦さんが梅毒に感染すると、胎盤を通じて胎児も感染する(母子感染)可能性があり、流産や死産、生まれた赤ちゃんに皮膚病変などの症状が現れる「先天梅毒」の原因となります。

妊娠中は健診でTPの検査が必須

したがって、妊婦さんにはこの梅毒血清反応は欠かせません。また、人間ドックの血液検査にはたいていこの検査が含まれています。

梅毒血清反応はどのような検査か?
梅毒の検査は採血をして行いますが、大きく分けて2つの方法があります。1つは、牛から採取したカルジオリピンという脂質を抗原として、血清の中の抗体と反応するかどうかを調べる方法です。これには昔からあるワッセルマン反応のほか、緒方法、ガラス板法などがあり、「STS」と総称されています。

もう1つは、梅毒の病原体そのものを抗原として、血清を加えて反応を見るTPHAテストやFTA-ABSテストなどの方法で、「TP」と総称されています。

STSは感染から4週間前後で陽性になりますが、TPは更に時間を要するため、一般の梅毒のスクリーニング(ふるいわけ)検査にはSTSが用いられます。またSTSは梅毒の病態が第1期から第3期へと進むに連れて反応が強くなります。しかし、治療とともに反応は弱くなり、完治すれば陰性になります。そのため、STSは治療効果を見る上でも大切な目安となっています。

検査結果の判定
まずスクリーニングとしてSTSが行なわれます。STSは梅毒だけではなく、膠原病や肝臓病、妊娠などでも陽性と出る(偽陽性)ことがあるので、陽性の場合はさらにTPHAを行ない、これも陽性であれば梅毒だと診断されます。STSが陽性でTPHAが陰性の場合は、さらにFTA-ABSを行ない、これが陽性であれば梅毒と診断されます。

血液検査

なお、梅毒に感染したあと抗体が検出されるまでには、STSの場合は約4週間、TPHAではさらに2週間かかるため、コンドームを使用しない性行為、アナルセックス、フェラチオ、風俗の利用などで感染が疑われた場合は、その行為から4週間以上たってから検査を受けるとよいでしょう。検査結果が陰性と出ても、疑わしい場合には3〜4週間後に改めて検査を行なうこともあります。

異常があったらどうするか?
抗体の量を調べる定量検査を行なって病気の状態を調べ、ペニシリン系抗生物質(製品名:バイシリンG)を中心にして治療を進めます。梅毒トレポネーマを完全に退治するには大量の抗生物質を長期間にわたって使用しなければなりません。

自己判断で通院を止めたり、薬の服用量を変えたりしないで、医師の指導の下で完治するまで続けましょう。血液や体液を他人に触れさせないようにすることも大切です。

梅毒で皮膚に潰瘍(ただれ)がある場合、皮膚のバリア機能が失われて傷口からHIVが感染するリスクが大きく上昇します。そのため、梅毒の検査で陽性反応が出た人にはHIV抗体検査も実施されます。

日本性感染症学会が発行する「性感染症 診断・治療ガイドライン」のなかでも、梅毒を診断する際にはHIVの感染の有無を検査することが推奨されています。

梅毒の予防は、不特定多数の人とのセックスを避けることが基本です。梅毒は感染力が非常に強く、口に病変がある場合はキスや唾液でも感染が成立します。したがって、感染を100%予防できるわけではありませんが、それでもセックスの際にはコンドームが必須です。

梅毒の感染者数は今後も増加することが予測されますが、早期に治療できれば重症期に進行することはほとんどないので、パートナー同士で感染の有無を確認しておくことが大切です。

異常な場合に疑われる病気
梅毒、膠原病、マラリア、γ(ガンマ)-グロブリン異常症など


 
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