病院の検査の基礎知識

ケジラミが陰部に寄生すると掻き毟りたくなるような強いかゆみが現れます

主にセックスを介して、体長1〜2mmの吸血性昆虫「ケジラミ」が陰部の陰毛などに寄生することで、猛烈なかゆみを引き起こす性病です。人に寄生するシラミは他にも存在しますが、性病を引き起こすのはこのケジラミだけです。戦後に流行の兆しを見せ、一旦は減少傾向となりましたが、1990年代中頃から、感染者数は再び増加傾向に転じています。

第二・第三の脚にハサミを持つ

孵化したケジラミは脱皮を繰り返しながら成虫(写真参照)になり、約1ヶ月間の寿命の間に30〜40個の卵を産みます。卵は陰毛等の根元にセメント様の物質でガッチリ固定されていますので、入浴時にシャワーで軽く流す程度では取り除くことはできません。

感染経路の大半はセックスにおける陰毛同士の接触ですが、スキンシップの時間が長い母子間でも感染する例があります。寝具やタオルの共用、風呂場の洗濯カゴ等でも感染はありえますが、宿主を離れたケジラミは吸血による栄養摂取ができないので、生存できる時間は最大で48時間程度です。しかも1日に10cm程度しか歩行できないので、感染経路としてはそれほど心配する必要はありません。

ケジラミが寄生する部位は主に陰部の陰毛ですが、肛門の周囲、腋、胸、頭、目など体毛のある部分ならどこでも寄生します。ケジラミ症の症状は、感染してから1〜2ヶ月後に我慢できないほどの強いかゆみとして現れます。湿疹を伴わないのが特徴です。

睡眠に支障をきたすほど症状が酷い人も少なくありませんが、かゆみがほとんどない感染者もいることから、かゆみの発生にはケジラミの唾液に対するアレルギー反応の関与も想定されています。

陰部の我慢できないかゆみは、膣カンジダ症膣トリコモナス症などの性病の特徴的な症状でもありますが、ケジラミは寄生部位のかゆみ以外に症状はありません。

股間がかゆい

診断はかゆみを訴える部位の体毛を拡大鏡で見ながら、成虫もしくは産み付けられた卵を確認することで行います。ケジラミが吸血した血液は茶色の便として体外に排泄されるので、肌着に茶色い斑点を確認することでもケジラミの存在がわかります。

ケジラミ症の治療で確実かつ安価な方法は、ケジラミが寄生している部位の体毛を全部剃ることですが、陰毛や腋毛への寄生ならまだしも、頭髪などでは外見上の問題から無理な人も少なくありません。このような場合はケジラミの治療薬を使用することになります。国内で認可を受けているのは、フェノトリンパウダー(商品名:スミスリンパウダー)、フェノトリンシャンプー(商品名:スミスリンL)の2剤です。

いずれも一般用医薬品ですので、医師の処方箋を必要とせずにドラッグストアや通販サイトで購入が可能です。しかし、陰部などのかゆみの原因がケジラミでない可能性もあるので、自己判断で購入しないで医療機関で医師の診断を受けてください。男性は皮膚科・泌尿器科・性病科、女性は皮膚科・婦人科・性病科を受診します。

治療の際には、パートナーとの間で相互感染を繰り返さないように、パートナーも一緒に医療機関で検査・治療を受けることが大切です。ケジラミ症の症状が現れるのは感染から1〜2ヵ月後ですので、1〜2ヶ月前にセックスをしたパートナーのケジラミ寄生の有無を調べます。既婚者は家族内感染も考えて、家族全員を調べてもらいましょう。

ケジラミ症は梅毒やエイズなど、他の性病との合併例も少なくないので、梅毒血清反応HIV抗体検査なども一緒に実施するのが理想です。


 
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