主に肛門と口が接触する類似性行為(リミング)で赤痢アメーバに感染
「赤痢アメーバ」という原虫に感染することで、血液や粘液が混じった下痢、腹痛、発熱などの症状を引き起こす感染症です。赤痢アメーバは腸管に寄生しており、体外に排出される糞便に含まれています。
感染経路としては、まず汚染飲食物を口にすることが挙げられます。そのため感染者の多くは衛生環境が劣悪な発展途上国に多く見られ、全世界で約5,000万人が感染しているとされています。
日本国内においても感染者数は増加傾向にあり、年間1,000人を超える症例報告があります。旅行・出張先の発展途上国からの帰国者の感染は全体の10%を占める程度です。国内感染者の大半は、もう一つの感染経路である類似性行為による感染が占めています。
すなわち、リミング(肛門を口先や舌先で刺激する類似性行為)を行う際に、パートナーの肛門周囲に付着していた糞便が口の中に入って感染したり、コンドームを付けないでアナルセックスを行った後、糞便が付着した自身のペニスを指で触れて、何らかの拍子に口先に指が接触して感染しているのです。そのため、感染者の多くは男性同性愛者となっているほか、リミングを性的サービスとして提供している風俗店で働く女性も感染リスクがあります。
男性同性愛者における赤痢アメーバの感染は、アメリカでも以前から流行していましたが、その多くは感染しても下痢等の症状が現れない「キャリア」です。一方、日本国内で感染が流行している赤痢アメーバの多くは、アメーバ性大腸炎やアメーバ性肝膿腫(かんのうしゅ)などを引き起こす病原種となっています。
アメーバ性大腸炎は、イチゴゼリーやイチゴジャムに似た粘血便をはじめ、下痢、排便時の下腹部痛、便意はあるのにトイレでは何も出ない、などの症状が現れます。粘血便は量が少ないと、排便時にトイレットペーパーに血液が少量付着するだけですので、痔と勘違いして医療機関を受診しない感染者が少なくありません。
アメーバ性肝膿腫(かんのうしゅ)は、肝臓に炎症が起きて膿がたまる状態で、38℃以上の発熱、倦怠感、上腹部の痛み、肝臓の腫れなどの症状が現れますが、発症直後は腹痛などの症状が現れないケースが多いため、風邪と勘違いしてしまうケースがあります。
赤痢アメーバ症の診断は、大腸炎が疑われる場合、糞便や大腸粘膜を採取して原虫の有無を顕微鏡で調べたり、大腸内視鏡で腸内の病変を直接観察したり、血液検査で赤痢アメーバ抗体を検出するなどの方法が採られます。肝膿腫が疑われる場合は、腹部エコーやCTによる画像検査、穿刺またドレナージによる膿の採取、血液検査などが行われます。
なお、男性同性愛者における感染例では、HIV感染症や梅毒などとの複合感染を起こしている場合が少なくないので、赤痢アメーバ症の検査を行う際にはそれらの病気も調べるHIV抗体検査や梅毒血清反応も併せて実施することが大切です。
大腸炎、肝膿腫のどちらの症状を呈しても、治療の際には5-ニトロイミダゾール系製剤のメトロニダゾール(商品名:フラジールなど)が処方されます。治療後2〜3ヵ月後、糞便中の赤痢アメーバを検査して、検出されなければ治療は完了となります。
男性同性愛者が赤痢アメーバ症と診断された場合、類似性行為による感染の可能性が濃厚ですので、パートナーも同時に内科(消化器内科)で治療を行う必要がありますが、治療を受けないでいる人が大半です。類似性行為を行った相手が特定のパートナーではなく、その場限りの相手のため特定が困難なのか、あるいは症状が現れないので、治療の必要がないと思っているのかはわかりません。
その結果、治療完了後も10〜20%の割合で見られる赤痢アメーバ症の再発が、投薬後も体内に潜んでいた赤痢アメーバによるものなのか、パートナーなどからの再感染によるものなのか、わからなくなっています。
赤痢アメーバ症を予防するためには、衛生環境の悪い発展途上国を旅行する際は、生水、生野菜、カットした状態で提供される果物は口にしないように心掛けましょう。特に屋台での食事は加熱された料理以外は避けたほうが無難です。手洗いの励行も忘れずに。男性同性愛者はコンドームを使用することで、一定の予防効果が期待できます。