病院の検査の基礎知識

HIV抗体検査(エイズ検査)は危険な性行為から3ヵ月以上経過してから受診

2015年の日本国内における新規HIV感染者と新規エイズ患者の合計は1,413人となっています(データ参照:厚生労働省エイズ動向委員会より)。エイズ患者は20代〜50代と幅広い年代層に多く見られ、男女比は約9:1の割合で男性が圧倒的に多くなっています。これはエイズの感染ルートの過半数は男性同性愛者の性的接触によるためです。

HIV

HIV抗体検査とは、エイズ発症の原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していないかを調べる検査です。健康な人の体は、外からウイルスが侵入すると免疫細胞がはたらいて抗体をつくり、それらを攻撃する仕組みなっています。ところがHIVの場合は、その免疫機構(=防御システム)に重要な役割を果たしている「ヘルパーT細胞」の中に侵入し、免疫機構を破壊してしまいます。

細胞内に侵入したHIVは、ヘルパーT細胞が分裂する際、自分のコピーを作って一緒に分裂し、その細胞膜を破って別のヘルパーT細胞に侵入していきます。こうして免疫機構が破壊されてしまうと、健康な体では感染しない病気におかされて死に至ります。その代表的なものが、発熱や咳、息切れなどの症状が出る「ニューモシスチス肺炎」や、肺や消化器に炎症を起こす「カンジダ症」などです。

HIV抗体検査で何がわかるのか?
HIVに感染しているかどうかがわかります。HIVは感染者の血液や精液、膣分泌液などの体液を通じて、体の粘膜や傷口から侵入し、数年〜10年間の無症候期(潜伏期間)を経てエイズを発症します。潜伏期の間も体内ではHIVが徐々に免疫機構を破壊していきます。

エイズ発症のプロセス

ところが、"キャリア"と呼ばれる感染者でも無症候期は健康な人と変わりなく元気なため、本人が感染を知らぬままセックスでHIVを移してしまう危険があります。したがって、本人の感染有無はもちろん、パートナー等への感染拡大を予防する意味でもHIV抗体を調べる検査は欠かせないものなのです。

HIVに感染していても、エイズを発症する前に薬剤による治療を開始できれば、失われた免疫力を回復させることで健康な人とほぼ同じの生活をおくることができます。

しかし、HIVの検査を受けていない人が多いため、HIVの感染が確認された時点で既にエイズを発症している、いわゆる「いきなりエイズ」の患者さんが全体の約30%にまで増加しているのが、近年の大きな問題です。

HIV抗体検査はどのような検査か?
血液を採取して行ないます。HIVに感染しているかどうかを調べるには、血清の中にHIVに対抗する抗体ができているかどうかで確かめます。検査結果は本人以外の人に知らされることはありません。また、保健所では、無料で匿名の検査を予約制で行なっています

HIVの採血サンプル

一部の保健所では1時間以内に検査結果が判明するHIVの迅速診断検査(RDTs)も実施しています。最新の技術が応用されているHIVの抗体検査は、他の性感染症の検査に比べてその精度で大きく上回っており、信頼性が非常に高いものです。

保健所によっては平日の夜間や土日でも検査が受けられるようになっていますが、多くの保健所は検査時間が平日の昼間や週2〜3日程度だったり、受診者を先着20名程度に限定しているため、「HIV検査を受けたい」と思った日時に必ずしも検査が受けられるわけではないのです。

近年は、自宅で手軽に行える「郵送検診」が台頭している影響もあり、保健所などの公的機関でHIV検査を受ける人は減少しています。保健所での検査件数は2008年に約17万7000件をピークに減少傾向に転じ、現在は約13万件となっています。保健所の検査は無料・匿名で精度も高いのですが、医師や看護師との「対面形式」が受診への心理的なハードルを上げていると推測されます。

HIV検査で注意が必要なのは、陽性(感染)を陰性と誤る「偽陰性」はないものの、本当は陰性なのに陽性(感染)と誤ってしまう「偽陽性」が約1%の受診者に生じてしまうことです。この場合、本当はHIVに感染してないにもかかわらず、確認検査の結果までに1週間以上待たされるため、その間の受診者の心理的なストレスの大きさは察するに余りあります。検査前には偽陽性の存在について十分な説明を受けるようにしましょう。

検査を受けるときの注意
HIVに感染してから抗体ができるまで6〜12週間かかります。つまり感染の可能性がある行為の直後に検査を受けても正しい判定はできないなのです。HIVの抗体が検出されない感染初期の期間を「ウインドウ期」といいます。

「一刻も早く陰性を確認して安心したい」という気持ちはわかりますが、HIV抗体検査は感染が疑われる行為から3ヶ月以上経過してから受けるようにしましょう。

赤十字の献血センター

なお、繁華街の献血ルームなどで献血をする際には、輸血によるHIV感染を防止する目的でHIVの検査を実施しています。しかし、献血制度の本来の趣旨を無視して、この検査を無料で受ける目的のためだけに献血に来る人が残念ながら大勢います。

国内の血液検査体制はダブルチェックで血液の汚染を防いでいますが、「絶対」に安心というわけではありません。実際、2013年には献血者からの血液を輸血した男性(60代)が、HIVに感染してしまった事例が報告されています。

献血前の問診票で検査目的が「不純」と判断された場合には、スタッフから献血を断られます。HIVの感染やエイズの検査目的で献血に行くのは絶対にやめましょう。

異常な場合に疑われる病気
HIV感染症、エイズ、日和見感染(ニューモシスチス肺炎、カンジダ症、トキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症、ヘルペスウイルス感染症、サイトメガロウイルス感染症、真菌感染症)、カポジ肉腫、リンパ腫など

リスクを高める危険な行為はコレ!セックスでHIVに感染するプロセス

血液・精液・膣分泌液を感染源としているHIVは、セックスや輸血などによって感染源に直接触れる行為で感染します。これらが傷ついた皮膚や粘膜に直接触れることで体内に入って感染が成立します。

ゴムなしのセックスはエイズが危険!

HIVは空気感染はしないので、キスをしたり、握手をしたり、同じ鍋で一緒に食事をしたりするなどの日常生活で感染することはありません。ディープキスは双方の口の粘膜が傷ついて大量に出血していれば、理論上は感染の可能性がありますが、現実にはキスでHIVに感染した例は報告されておらず心配はありません。

感染ルートにはセックス以外にも輸血や母子感染などいくつかありますが、現実的に国内で気をつけるべきなのは、コンドームを使用しないセックスです。

性器の皮膚は手足のように頑丈ではなく、デリケートな粘膜で覆われています。したがって、男性のペニスを女性の膣に挿入する通常のセックスの場合、ピストン運動の際に小さな傷がついて、そこから感染者の精液(男性)や膣分泌液(女性)、月経中のHIVが侵入してしまいます。

HIVの感染リスクを具体的な数字で示すならば、コンドームを使用しないセックス1回につき男性は0.1%、女性は1%ほど感染する確率があります。

女性に比べて男性のリスクが小さいのは、セックス後にペニスに付着した膣分泌液は拭き取ったり、あるいは自然乾燥したりするためです。また膣分泌液は男性の尿道に入りにくいし、仮に入ったとしても排尿時に排出されるのも一因です。一方、女性は膣粘膜の面積が広いうえ、精液が精子の運動にあわせて子宮内に入ってくるため感染リスクが高まるのです。

1%と0.1%という数字は他の性感染症(STD)の感染リスクと比較すれば微々たる数字ですが、あくまでも机上のデータです。現実にはソープランドなどの風俗の利用で、文字通り"一発感染"する男性もいるため、油断は禁物です。

特にソープやデリヘルはコンドームを使わない"生"の状態で性器の粘膜が接触する機会が多いため、不特定多数の男性を相手にしている女性従業員は勿論、男性利用者もHIVの感染リスクは通常のセックスに比べて大きく上昇します。

エイズ感染率を高めるアナルセックス

HIVの感染リスクを大きく上昇させる行為はアナルセックスです。肛門や直腸粘膜は毛細血管が張り巡らされており非常にデリケートです。ペニスを挿入された側がHIVの感染者なら、出血した血液中のHIVが、パートナーのペニスの粘膜のわずかな傷口から侵入します。

逆にペニスを挿入した側が感染者なら、精液中のHIVが直腸粘膜から侵入することになります。この場合、肛門の筋肉(括約筋)が精液を包み込むような形になりますので、精液が肛門内に長時間残ってしまい、感染リスクはさらに高まります。HIV感染者に同性愛の男性が多いのは、これが理由です。

では女性同士のセックスはどうでしょうか? HIVは膣分泌液の中に含まれていますが、相手の体内に大量に膣分泌液が入るシチュエーションは考えにくいので、HIVの感染リスクはほとんどないといえます。

男性の性器を口で愛撫する「フェラチオ」、女性の性器を口で愛撫する「クンニ」に代表されるオーラルセックスは現在、多くのカップルが行っています。口の中も粘膜なので、感染者の精液や膣分泌液を口に含んだり、飲んだりすればHIVの感染リスクが僅かながらあります。

フェラチオやクンニでむしろ注意すべきは、感染力が強力なクラミジアや淋病のほうで、感染者との1回のオーラルセックスでの感染率が40%もあるとされています。

クラミジアや淋病、梅毒など多くの性感染症(STD)は性器だけでなく、口や喉の粘膜に炎症を起こします。炎症を起こした部位はバリア機能が失われているので、HIVが感染しやすくなります。例えばクラミジアに感染している人はそうでない人に比べてHIVの感染リスクが4倍ほど上昇するといわれています。梅毒も陽性反応が出た人には必ずHIVの検査が行われます。

以前はHIVの感染は「死は免れない」病気とされてきましたが、多剤併用療法(HAART)などの薬物治療の進歩により、感染者の予後は大きく改善されており、25歳でHIVに感染した場合、平均で76歳まで生きることができるという報告もあります。しかし、薬物治療は長期間にわたるため、経済的な負担さらには副作用による心身の負担も大きいため、感染を予防することが大切です。

日頃から健康管理に気を配り、当たり前ですが、セックスの際には必ずコンドームをつけましょう。射精前にペニスから出る分泌液にもわずかながら精液が混じっているので、セックスの途中からコンドームを着用するのは性感染症の感染予防効果を低下させてしまいます。


 
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