病院の検査の基礎知識

「暗黒の臓器」だった小腸の全観察を可能にしたダブルバルーン内視鏡検査

小腸は長さが数メートルある消化管の中央にあり、栄養の吸収を担っている重要な臓器ですが、同じ消化器である胃や大腸と異なり、口からも肛門からも遠いため、従来の検査法では小腸の全域を内側から確実にとらえることは困難とされてきました。そのため、内視鏡技術が進歩を遂げてきた過去30年も、小腸は「暗黒の臓器」と呼ばれてきました。

ダブルバルーン小腸内視鏡

この状況を変えたのが、自治医科大学の山本博徳氏が考案し、現在では世界40ヵ国で臨床導入が進んでいるダブルバルーン内視鏡です。この内視鏡の登場により、小腸の全観察が可能となり、小腸の腫瘍や炎症、血管性病変など、胃や大腸とは異なった疾患を早期発見・治療することができるようになりました。

ダブルバルーン内視鏡検査で何がわかるのか?
従来からあるバリウムによる小腸の造影検査では、小腸が重なって病変部が見にくく、細かい変化は捉えきれないという欠点がありました。また、CTやMRI検査では、腸閉塞などの大きな病変は分かりますが、潰瘍や血管病変などの粘膜病変は検出できませんでした。

欧米で広く普及し、国内でも承認されているカプセル内視鏡は、患者へ負担は小さいですが、腸の蠕動運動で移動しながら撮影するため、異常が見つかっても詳しい検査や治療はできないという欠点がありました。

一方、ダブルバルーン内視鏡は、患者への負担という点ではカプセル内視鏡には及ばないものの、手元のコントローラーでカメラを自在に動かすことができるため、従来の検査では発見が困難とされてきた小さな病変部まで詳しく検査することができます。

また、その場で組織の採取が可能ですので、判別の難しいクローン病と腸結核の鑑別や、腫瘍の診断が確実につきます。さらに、止血、ポリープの切除、閉塞部分の拡張などの治療も可能です。

そのほか、手術による癒着の影響で通常の大腸内視鏡検査で挿入が困難であったりした場合にも、ダブルバルーン内視鏡が下部消化管内視鏡検査として有用です。また、胃の手術後の胆管造影検査にも応用できるとされています。

ダブルバルーン内視鏡検査はどのように行うのか?
原則として入院が必要となります。小腸内の予想される病変部位によって口と肛門のどちらから挿入するかを決めます。検査前日の午後9時以降は絶食となりますが、経肛門挿入の場合は、検査食の摂取が必要な場合がありますので、医師の指示に従ってください。

検査当日は、検査着に着替えて、ベッドの上に横になります。静脈麻酔をしてから、ダブルバルーン小腸内視鏡を経口もしくは経肛門的に挿入します。内視鏡の先端についたバルーン(風船)を手元のコントローラーで膨らませたりしぼませたりしながら腸管を手前に折りたたむように短縮させ、尺取り虫の動きのように、内視鏡を小腸の深部へ進めていきます。

検査の所要時間は約1〜2時間ですが、小腸全体を検査する場合は、経口的挿入と経肛門的挿入の両方が必要ですので2回に分けて行います。特に問題がなければ検査当日から普段どおりの食事が可能です。

異常があったらどうするか?
内視鏡的ポリープ切除術、出血源に対する止血術、またクローン病などに合併しうる小腸狭窄に対しては、バルーンを用いた拡張術など内視鏡的処置を行います。万一、内視鏡による処置が困難な場合には、病変部に点墨(粘膜下層にごく少量の墨を注入して、印をつけること)して、後に行う治療の際の目印とします。

異常な場合に疑われること
小腸出血、小腸腫瘍、小腸狭窄、ポリポーシス症候群、クローン病、腸結核、CMV腸炎など


 
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