病院の検査の基礎知識

自覚症状のない隠れ脳梗塞や未破裂動脈瘤を発見する脳ドック

脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)は、脳の血管の病気で医学的には「脳血管障害」ともいいます。脳卒中は働き盛りの40〜60歳代に多く、元気だった人が突然手や足が動かなくなったり、言葉が喋れなくなったり、ときには意識障害、記憶障害が起きる怖いな病気で、「寝たきり」の原因の第1位となっています。

頭部MRI

しかしながら、一般的な人間ドックの検査項目には脳の画像検査(頭部MRI、MRAなど)は含まれていないため、脳の組織や血管の状態を調べるには、脳卒中の早期発見に特化して検査を行う「脳ドック」を受ける必要があります。

高血圧、糖尿病、脂質異常症などの脳卒中につながる生活習慣病がある人、親・兄弟に脳卒中を起こした人がいる方などは、脳卒中の危険因子を抱えていることになりますので、発作を起こす前に脳ドックを受診し、脳の血管がどういう状態になっているかを確認してみるとよいでしょう。

脳ドックで行うさまざまな検査(下の表を参照)は、隠れていた脳の病気を明らかにします。例えば、既に脳梗塞が起こっているのに病変が小さいため自覚症状が現れない「無症候性脳梗塞」は、脳ドックが普及したことで注目されるようになった病態です。近年では「隠れ脳梗塞」とも呼ばれています。

無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)が発見された人は、そうでない健康な人に比べて、本格的な脳梗塞を発症するリスクが高くなることがわかっています。本格的な脳梗塞を発症する前に脳ドックで無症候性脳梗塞を発見できれば、上記の危険因子の有無、ある場合はその内容を調べて生活指導を行うことで、脳梗塞の発症リスクを下げることができます。

そのほか、脳の動脈に瘤ができ、破裂するとくも膜下出血を起こす「未破裂動脈瘤」、頚動脈が狭くなり脳梗塞を起こすことがある「無症候性頚動脈狭窄」、アルツハイマー病などの認知機能障害、脳腫瘍、脳動静脈奇形、モヤモヤ病などの脳の病気を発見することができますので、脳卒中の危険因子がない人も脳ドックを受診する意義はあります。

脳ドックの検査項目は医療機関によって異なり、頭部MRI頭部MRA、頚部エコーのみ(検査結果は郵送)のシンプルなコースもあれば、心電図、血液検査、血液生化学検査、尿検査などをプラスし、脳神経外科専門医が面談形式で検査結果を詳しく説明してくれるフルコースのものまでさまざまです。ここで検査の主役となるMRIとMRA、頚部エコーについて、少し詳しく見てみましょう。

MRI(磁気共鳴画像)
放射線は使用せずに、強力な磁場の中に頭部を入れて、脳に磁気を当ててコンピュータで画像化します。脳を縦・横・斜めのあらゆる方向から断面画像を映し出すことができるのがMRIの最大の特徴です。

隠れ脳梗塞の画像

MRI検査を実施することで、脳の構造や病巣の様子、性質までもが詳しく分かり、CT検査では画像が乱れてしまう小脳や脳幹部の鮮明な画像を得ることができます。自覚症状に乏しい「隠れ脳梗塞」や脳腫瘍の早期発見に欠かせない検査です。

MRI検査の「拡張強調画像(DWI)」と呼ばれる撮影法では、脳梗塞の発症直後から病変部を映し出すことができるため、脳梗塞の有無、その位置や範囲をいち早く知ることができます。

強力な磁場の中で撮影するので、ペースメーカーの手術を受けている方、チタン製以外の脳動脈瘤クリップが入っている方、骨折のボルトが入ったままの方、妊娠しているor妊娠の可能性がある方はMRI検査を受けることはできません。

脳ドックを実施している医療機関のホームページを見ると、「当院では○×社の最新3.0テスラのMRIを導入しております。」という記述が目につくかと思いますが、「テスラ(T)」とは磁気の強さを表す単位のことで、数値があがるにつれて高画質で安定した画像の抽出が可能となります。現在、脳ドックで使用されるMRI装置の主流は1.5テスラもしくは3.0テスラです。

MRA(磁気共鳴血管画像)
MRIと同様に磁気共鳴診断装置で行います。造影剤を使うことなく、磁気を脳に当ててコンピュータで画像化し、血管だけを鮮明な画像として映し出すことができます。CT検査と異なり、頭蓋骨の中の血管も見られるので、血管が頭の中に入ってくる部分も見ることができます。

未破裂の脳動脈瘤を発見

脳ドックでは、進行すると脳卒中を引き起こす動脈硬化や、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の有無を調べる際に重宝します。脳ドックの検査内容は医療機関によって異なりますが、MRIとMRAは必ず行われます。

頚部エコー
頚部に「プローベ」または「端触子」と呼ばれる器具を当てて超音波によって頚動脈の状態を観察する検査です。頚部エコーにより脳梗塞やその前触れ症状である「一過性脳虚血発作(TIA)」の原因となる頚動脈の動脈硬化性変化を詳細に観察することができます。

動脈硬化のリスク評価を実施

血管の動脈硬化を起こした部分を「プラーク」といいますが、頚部エコーでは、このプラークが危険なものか、危険性が少ないものなのかを判別することも可能です。患者さんが椅子に座ったまま苦痛もなく簡単に行えるのも大きなメリットです。

日本脳ドック学会では学会の認定基準に満たす脳ドックの検査項目として以下の検査を挙げています。生活習慣病、喫煙・飲酒習慣、肥満などの危険因子を複数抱えている方は、この検査基準をクリアした施設で脳の状態をチェックしてもらうとよいでしょう。

問診および診察 ・家族と本人の病歴、生活習慣、飲酒・喫煙などについての問診
・血圧測定と脈拍の触診、心音や頚部血管の聴診
血液・尿・血液生化学検査 ・血液検査(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数)
・尿検査および血液生化学一般検査(総たんぱく、アルブミン、総コレステロール、血糖、HbA1c、尿酸、BUN、クレアチニン)
心電図検査 ・心疾患や心房細動(不整脈の一種)の有無を調べます
MRI ・脳の状態を調べます。
MRA ・脳の動脈瘤や動脈硬化、血管が詰まっていないかなどを調べます。
・頚部MRAを行うこともあります。
頚部エコー ・動脈硬化の有無や進行の程度、血管が詰まっていないかなどを調べます。

脳ドックの検査時間は2時間から3時間くらいです。検査結果は当日に担当の医師(脳神経外科の専門医など)から説明があり、脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症ほか)の管理についてのアドバイスもあります。MRIやMRAの検査画像はCD-ROMなどで当日受け渡し、あるいは後日郵送してもらえる施設もあります。

検査項目を簡素化することで費用と所要時間を抑えた一部の脳ドックでは、医師による検査結果の説明を省略して、書類のみを郵送するというところもありますが、できれば面談形式で医師が結果説明を行ってくれる施設を選ぶようにしましょう。

脳ドックは、一度受診したらそれで終わりというものではなく、結果を有効に活用して脳卒中の発症を防ぐことに意味があるのです。脳ドックで異常が見つかった人は1年に1回、幸いにして異常が見つからなくても40歳を過ぎたら、数年に1回は脳の状態をチェックすることをお勧めします。

脳ドックの費用(料金)は、医療機関や検査項目の数によって大きく変動します。頭部MRI・MRAのみのシンプルなコースでは2〜3万円前後のものもあれば、脳卒中と関連する部位の検査を充実させたり、人間ドック、がん検診、レディースドックなどと組み合わせたコースでは10万円を超えるものまであります。

金額に関係なく、脳ドックは健康な人を対象に行う検査ですので、健康保険は適用されません。企業の健康保険組合やお住いの市区町村によっては、検査費用の助成金制度を設けているところもありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。


 
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