動脈硬化の予防する働きがあるHDL(善玉)コレステロール
血液中のコレステロールや中性脂肪などが、たんぱく質と結びついたものを「リポたんぱく」といいます。リポたんぱくを遠心分離器にかけると、比重の違いによって軽い順に、カイロミクロン、VLDL(超低比重リポたんぱく)、LDL(低比重リポタンパク)、HDL(高比重リポたんぱく)に分けられます。コレステロールを多く含んでいるリポたんぱくとしてはのはHDLとLDLがあります。
HDLコレステロールは、血管内壁にへばりついて動脈硬化を引き起こすコレステロールを引き抜いて、肝臓まで運ぶ働きをしています。このことから「善玉コレステロール」と呼ばれています。
一方、LDLコレステロールは、細胞内に取り込まれなかった余剰なコレステロールを血管内に放置し、動脈硬化を引き起こす原因となるため、「悪玉コレステロール」と呼ばれています。
HDLコレステロールで何がわかるのか?
この検査は、動脈硬化を防ぐ作用のあるHDLコレステロールが、どれ位あるかを調べる検査です。総コレステロール値が高くなくても、HDLコレステロール値が低いと、動脈硬化が進んで狭心症や心筋梗塞を引き起こしやすいことがわかっています。動脈硬化の危険度の指針として、総コレステロール値とともに、健診や人間ドックで欠かせない検査となっています。
HDLコレステロールはどのように調べるのか?
検査当日の朝は絶食し、空腹時の血液を採取して調べます。特殊な試薬を用いて、LDLとほかのリポたんぱくを沈殿させ、残ったHDLを酵素で処理して測定します。最近はHDLを直接検出する検査法もおこなわれています。
基準値と変動の範囲
- 男性…30〜80mg/dl
- 女性…40〜90mg/dl
検査結果の判定
HDLコレステロールの値が基準値よりも低ければ、低HDLコレステロール血症と診断され「動脈硬化」の危険性が高くなります。動脈硬化とは、本来はしなやかで柔軟性に富んでいる血管が硬くなり、壁が厚くなった状態です。
動脈硬化が恐ろしいのは、自覚症状に乏しいため本人が知らない間にどんどん進行することです。そのため、動脈硬化は「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれています。動脈硬化を放置していると、心臓の動脈(冠動脈)や脳の血管が詰まって酸素と栄養が行き渡らなくなり、「心筋梗塞」や「脳梗塞」を引き起こすリスクが高まります。
一方、HDLコレステロール値の高い人は、心筋梗塞や脳卒中などが起こりにくく、長生きする人が多いため「長寿症候群」と呼ばれています。
検査数値の異常で疑われる病気
- 高値…薬剤(クロフィブレート、HMG-CoA還元酵素阻害剤)の影響、CETP欠損症など
- 低値…動脈硬化、糖尿病、肝硬変、腎透析など
善玉コレステロールを増やすカギは食生活の改善と運動の継続にあります
HDLコレステロールは総コレステロールと関係しており、HDLコレステロールが低値でも、総コレステロールが低値であれば、問題はありません。逆に、HDLコレステロールが高値でも、総コレステロールが著しく高値の場合は毎日の食事や運動で改善することが必要です。
食事は、エネルギーの摂取量を適正にするよう心がけましょう。脂肪のとり方にも注意が必要で、動物性脂肪を控え、その分は植物油(リノール酸、オレイン酸)や新鮮な魚の油(EPA、DHA)で補います。海草やキノコなどを積極的にとり、食物繊維の摂取量を増やすことも大切です。
同じ植物油でも、マーガリン、焼き菓子やパンの製造に使用されるショートニングに含まれているトランス脂肪酸は、LDLコレステロール値を上昇させ、心筋梗塞などのリスクを高めることがわかっているので、できるだけ避けるようにしましょう。
近年の研究では、トマトに豊富に含まれているリコピン(赤色の色素)に善玉のHDLコレステロールを増やす働きがあることが確認されており、ビタミンEの100倍以上とされる抗酸化作用とともに注目されています。外食が多い方は、ビタミンやミネラルも一緒に摂取できるトマトジュースでリコピンを補ってあげるのもよいでしょう。
運動では、ジョギング、ウォーキング、サイクリング、水泳など、酸素を取り込みながらゆっくりとエネルギーを消費する「有酸素運動」を継続的に行うことで、悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪を減らし、善玉のHDLコレステロールを増やす効果が期待できます。
有酸素運動は、毎日30分程度、あるいは最低週3回、合計180分ほど行わないと効果が期待できないとされているので、継続をこころがけるようにしましょう。個人差はあるものの、正しい食生活と運動の継続により、数か月後には検査値の改善がみられるでしょう。