病院の検査の基礎知識

セックスでB型肝炎ウイルス(HBV)に感染する若い人が増えています

急性肝炎や、肝硬変、肝臓がんへと進展する慢性肝炎を引き起こすB型肝炎ウイルス(HBV)に感染しているかどうかを調べるのが、HBs抗原(B型肝炎ウイルスの外側のタンパク質)の検査です。

B型肝炎ウイルス

B型肝炎の感染ルートは、C型肝炎と同様に、ウイルスに汚染された血液の輸血、汚染された血液で作られた血液製剤の使用、汚染された注射器やチューブの使用、ピアスや刺青をいれる際に使用する器具の消毒不足などが挙げられ、以前は院内感染の代表とされてきました。

ただし、日本では献血の際に行われる血液検査の精度が高いため、輸血で感染することはまずありません。病院の衛生管理が改善された今日では、注射器や注射針の使いまわし等による感染もほぼなくなりました。また以前は国内の感染者の大半が母子感染でしたが、妊婦検診でB型肝炎ウイルスの検査が行われるようになった1986年以降は激減しています。

B型肝炎ウイルスは男性の精液や女性の膣液にも存在しているため、近年はセックスを介して感染する若い人が増えています。そのため、クラミジア梅毒淋病膣カンジダ症などと並んで、STD(性感染症)としてのB型肝炎の流行が問題となりつつあります。B型肝炎ウイルスの感染力はC型肝炎ウイルスエイズウイルスよりもやや強力なため、注意が必要です。

B型肝炎ウイルスを免疫系が異物として認識できずに抗体がつくられない場合は、肝細胞も破壊されないので肝炎は発病しません。そうなるとB型肝炎ウイルスは排除されずに、体内に保有されたままになります。この状態を「キャリア」と呼び、国内の感染者の約90%を占めています。

この検査で何がわかるのか?
血液を採取してHBs抗原を調べることによって、B型肝炎ウイルス感染の有無や、その程度を知ることができます。また急性肝炎や慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんの診断の他に、キャリアかどうかの確認のためにも用いられています。B型肝炎ウイルスは、特に血液を通じて感染するため、輸血時の感染や、出産時の母子感染を防ぐための検査として欠かせないものとなっています。

HBs抗原・抗体はどのように検査するのか?
血液を採取して調べます。検査当日の食事は普段どおりにとってもらってかまいません。

基準値
陰性(-)なら正常です。

検査結果の判定
陽性ならB型肝炎ウイルスに感染していると考えられます。陰性でも抗体が陽性なら、過去に感染したことを示していますが、現在体内にウイルスはいないので他人には感染しません。

異常があったらどうするか?
肝機能障害があるかどうかGOT、GPTなどの血液検査を行ないます。GOT、GPTが上昇していればB型肝炎であり、急性・慢性肝炎、肝硬変などの区別のため、腹部超音波検査腹部CT検査肝生検などのさらに詳しい検査を行ないます。

異常な場合に疑われること
B型肝炎(急性・慢性)、肝硬変、肝臓がんなど

慢性肝炎になると自覚症状がなく、ウイルス感染の状態が続くので要注意

B型肝炎の代表的な症状としては、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、食欲不振、黄疸、褐色尿などがあります。これが「急性肝炎」で、B型肝炎ウイルスの感染によって肝臓に炎症が起きた状態です。

全身のだるさ

炎症が発生するのは、体の免疫系が肝細胞に侵入したB型肝炎ウイルスをやっつけようとして、肝細胞も一緒に破壊している証拠です。そのため、ほとんどの場合、B型肝炎ウイルスに感染しても完全に回復します。このときに作られた抗体は生涯にわたって有効なため、その人がB型肝炎ウイルスに感染することは二度とありません。

しかし、急性肝炎になった人の1〜2%は重度の肝機能障害や意識障害などの症状が現れ、生命を左右する状態に陥ることがあります。これが「劇症肝炎」です。劇症肝炎はA型・C型・E型の肝炎ウイルスでも発症しますが、全体の4割をB型肝炎ウイルスが占めています。

また、急性肝炎が完治しないで、B型肝炎ウイルスが継続的に肝細胞に感染した状態になることがあります。これが「慢性肝炎」です。この場合、肝臓は破壊された分を補おうとして、肝細胞を増殖させて肝機能を維持します。肝臓の再生能力が高いがゆえに、慢性肝炎は自覚症状がほとんど現れることがなく、抗体やウイルス検査を行わないと発見できません。

慢性肝炎では表面的には何も起こっていないように見えますが、肝臓ではB型肝炎ウイルスによる肝臓の破壊と、肝臓に備わっている再生能力による機能維持の双方がせめぎあっているのです。肝炎の慢性化が長期間(数年〜数十年)続くと、肝硬変、そして肝臓がんに進行する恐れがあります。

つまり、B型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎の段階まで進むと自覚症状はないものの、ウイルスを体内に保有するキャリアとなり、本人が知らないうちにセックスなどを通じてウイルスを周囲に感染させる恐れがあります。

過去の交際歴や病歴などの背景がよくわからない人とセックスをする際には、ほかの性感染症を予防するときと同様、コンドームを着用しましょう。パートナーがキャリアの方は、B型肝炎ワクチンを接種することで感染を未然に防ぐことができます。

乳児期にB型肝炎ウイルスに感染するとキャリア化することが多い事態を受け、2015年1月の厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会では、B型肝炎のワクチン接種を公費で行う「公的接種」にするべきだという報告を出しました。早ければ2016年に制度の見直しが行われ、1歳までに3回のワクチン接種(現在は1万5千円の負担)が公費で受けられるようになる見通しです。


 
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