病院の検査の基礎知識

開発途上国の旅行者はカキや生水などによるA型肝炎ウイルスの感染に注意

A型肝炎は、牡蠣(カキ)をはじめとする魚介類、糞便に汚染された水や氷、生野菜、カットフルーツ、加熱しない飲食物などを口にすることで、A型肝炎ウイルス(HAV:Hepatitis A Virus)に感染して発症します。

肝細胞が破壊される劇症肝炎に注意

A型肝炎ウイルスが経口的に感染するのに対して、B型肝炎C型肝炎は血液感染や性感染を起こします。つまり同じウイルス性肝炎であっても、感染経路に大きな違いがあるのです。

また男性同性愛者の間でSTD(性感染症)としてA型肝炎が広がることがあります。これはアナルセックスで挿入したペニスにウイルスが混じった糞便が付着し、そのペニスに触れた手で口元を触ったりして感染するためです。

また唇や舌で肛門を愛撫する「リミング」と呼ばれる類似性行為で感染することもあります。この感染プロセスは同じく男性同性愛者に多く見られる、赤痢アメーバ症という性感染症とよく似ています。

A型肝炎ウイルスに感染すると、2週間〜1か月程度の潜伏期間を経て、全身の倦怠感、食欲不振、悪心(胸のムカムカ)、嘔吐、黄疸(皮膚や眼球結膜が黄色くなる)などの症状が現れますが、自覚症状が全く現れない人もいます。症状が現れた場合には、AST、ALTなどの検査値の異常が2〜3か月ほど持続します。

これらの臨床症状や肝機能異常、IgM抗体検査で数値の上昇を確認することで診断がつきます。ウイルス感染によってできる抗体は、症状が現れてから数か月かけて陰性化していきます。

A型肝炎には特別な治療薬は存在せず、安静にしていれば1〜2週間後には自然治癒することがほとんどです。ただし、症状が治まった後も数週間は便中にウイルスが排泄されるので、他人を感染させないように注意しましょう。

A型肝炎はB・C型肝炎のように慢性化する心配はほとんどありませんが、患者の1%は肝細胞のほとんどが破壊されてしまう「劇症肝炎」を発症し、その約40%が死に至ります。劇症化しなければ予後は良好です。

上下水道などの衛生環境が整備されていなかった戦後は、日本国内でも多くの人がA型肝炎ウイルスに感染しましたが、現在では国内の感染者数は大幅に減少しました。

しかし、感染者数の減少は免疫を持っている人が減っていることも意味しており、実際、年齢層が低くなるほど免疫の保有率は低下しています。逆に60歳以上の人は多くの場合、既に免疫を獲得しています。

東南アジアやアフリカ、南米などの開発途上国では現在も飲用水の管理が劣悪なところも少なくありません。A型肝炎ウイルスに感染した人が便をすると、上下水道に混入して、簡単に井戸水や水道水を汚染されてしまいます。

海外旅行などでこれらの国を訪れる際には、A型肝炎ワクチンを接種しておくと安心でしょう。ただし、本人が知らない間に感染して自然に免疫を獲得しているケースもありますので、ワクチン接種を希望する場合は、まず医療機関を受診して採血による抗体検査で免疫の有無を確認してもらいましょう。

ワクチンは2〜4週間の間隔を開けて2回接種し、さらに長期の免疫を獲得をするためには半年後にもう1回接種します。これにより最低でも5年間はワクチンが有効とされています。

A型肝炎の感染を予防する基本は、手洗いの徹底と飲食物の十分な加熱です。開発途上国を旅行する際は、生水を直接飲むことはせず、市販のミネラルウォーターや一度沸騰させた水を飲むようにしましょう。

カキや生魚もNGですので、魚介類を食べるときは十分に火を通した料理を選びましょう。カットフルーツは、洗った水がウイルスで汚染されていることもあるので、果物を食べるならば自分の手で皮を剥くものが安全です。

男性の同性愛者間の感染は、糞口(ふんこう)感染という形をとるので、コンドームの着用はA型肝炎の予防という観点では役に立ちません。感染力も非常に強いため、パートナーが免疫を持っていない場合はワクチン接種以外に有効な予防手段はありません。


 
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