病院の検査の基礎知識

血圧が高い人は動脈硬化が進んで脳卒中や心臓病のリスクが高くなります

血圧とは、心臓のポンプ作用によって全身に血液が送り出されるとき、血管に与える圧力のことです。心臓が血液を動脈に送り出す圧力を「収縮期血圧」または「最高(最大)血圧」といいます。これに対して心臓が元に戻り、血液をためる間の血圧を「拡張期血圧」または「最低(最小)血圧」といいます。

血圧測定

血圧測定で何がわかるのか?
循環器系の検査のベースになります。特に、高血圧は、動脈硬化に伴って起こる脳卒中や心臓病の重要な危険因子となるため、血圧はこれらの病気を予防する上で重要な指針になります

また、血圧の高低を調べるだけでなく心臓の収縮力を調べたり、血流の状態をチェックしたりと、さまざまな診断に役立て、さらには血圧降下剤の効き目を測定したりと、高血圧を治療している人の経過観察にも力を発揮します。

基準値
日本高血圧学会が定めた血圧の判定基準では、最高血圧140mmHg以上、最低血圧90mmHg以上で高血圧と診断され、さらに次のように分類しています。

基準値のグラフ

血圧の判定基準(単位:mmHg)
左の数値は収縮期血圧(最高血圧)を、右の数値は拡張期血圧(最小血圧)を表しています。

  • 至適血圧…120 かつ 80未満
  • 正常血圧…130 かつ 85未満
  • 正常高値血圧…130〜139 または 85〜89
  • I度高血圧…140〜159 または 90〜99
  • II度症高血圧…160〜179 または 100〜109
  • III度高血圧…180以上 または 110以上
  • 収縮期高血圧…140以上 かつ 90未満

検査結果の判定
高血圧の程度は上記のようにI〜III度によって3段階に分けられ、重症度に比例して心臓病や脳血管障害のリスクも高くなります。以前は軽症、中高症、重症に分けられていましたが、「軽症ならたいしたことないな」と治療を受けない人が多かったため、現在の表示に変更されました。最小血圧が90mmHg未満でも、最高血圧が140mmHg以上なら収縮期高血圧という異常値に分類されます。

ご存知ですか?「白衣高血圧」と「仮面高血圧」
健診やかかりつけのクリニックなどで血圧測定を行うと、医師や看護師の前で緊張するせいなのか、普段よりも血圧が上昇する人が少なくありません。こういうケースを「白衣高血圧」と呼んでいます。

上腕にカフを巻く血圧計

そのため血圧の基準値は、家庭では「マイナス5mmHg」を目安とし、医療機関で測った数値をよりも家庭での数値のほうが信頼性が高いと考えられています。

医療機関で高血圧の診断をするために血圧を測る場合も、家庭での数値を優先するので、血圧が高い人は毎日自宅で「起床1時間以内」と「就寝前」に血圧を測る習慣をもつことが大切です。

一方で健診や診察時の血圧は正常なのに、家庭で数値を測定すると血圧が高くなる「仮面高血圧」の人もいます。仮面高血圧のほうが血圧が高い時間が長いため、体に負担がかかります。

異常があったらどうするか?
原因となる病気がある「二次性高血圧」が疑われる場合は、心電図心エコー胸部X線撮影、血液検査、眼底検査、尿検査などで詳しく調べて診断をつけ、その病気を治療することが必要です。

高血圧の状態が長く続くと、血管に高い圧力がかかったままになって血管壁がもろくなり、さまざまな障害が生じてきます。高血圧は脳梗塞や心筋梗塞の最も重要な危険因子の一つです。

これらの発症には、高血圧以外では喫煙、糖尿病、脂質代謝異常、肥満、既にかかっている高血圧に基づく脳・心臓・腎臓などの疾患が深く関係しています。

したがって、検査で高血圧と判定されたら、血圧を下げることが重要です。喫煙や過度のストレス、運動不足、飲酒などの生活習慣を見直します。生活習慣を改善しても、目標とする血圧にならない人や、軽症でも他に動脈硬化のリスクとなる病気を持つ人や、中等症、重症の高血圧の人は、医師の指示の下に降圧薬を服用して血圧をコントロールします。

近年、糖尿病の人は高血圧になりやすく、高血圧の人もまた糖尿病になりやすいというデータが報告されています(高血圧治療ガイドラインより)。糖尿病も高血圧は、いずれも血管の老化を促進し、脳梗塞や心筋梗塞などの合併症を引き起こすリスクを高めます。

似た合併症を起こすリスクがある病気なので、糖尿病と高血圧の双方に該当する人は、これらの合併症のリスクが2倍になってしまうリスクがあります。したがって、高血圧の人は、血圧コントロールと並行して、血糖値も適正値内にキープする必要があります。

異常な場合に疑われること

  • 高血圧…本態性高血圧、二次性高血圧(腎臓病、脳血管障害、大動脈縮窄症、甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、褐色細胞腫、睡眠時無呼吸症候群)など
  • 低血圧…自律神経失調症、貧血、下痢、内分泌異常など

塩分の過剰摂取は高血圧の原因となるため、毎日の食事での工夫が必要です

冒頭でも触れましたが、高血圧は脳卒中や心臓病の重要などの危険因子となります。血管に高い圧力がかかり続けることで血管が破れること、また、動脈硬化を促進するため脳梗塞や心筋梗塞を起こすのです。

バランスの良い食事が大切

血圧が高くなる原因はいろいろありますが、まずは食塩の摂りすぎ、ストレス、喫煙習慣です。なかでも食塩の摂取量は、血圧に大きく影響します。食塩の成分であるナトリウムが、血管の細胞に入ると血管が収縮しやすくなり、そのため抵抗が増えること、塩分の摂りすぎを調整するために水分を大量にとることになり、血液の量が増えるなど、さまざまな形で血圧を上昇させるのです。

関西よりも東北地方の人に脳出血の発症数が多いのは、東北の人はそれだけ塩辛いものを多く食べているため、血圧が高くなっているからとされています。食塩の摂取量に比例して、脳出血を発症するリスクも高くなります。そして動脈硬化も進行するため、脳梗塞のリスクも高まります。

一昔前、日本人の食塩摂取量は、1日平均20gもありました。現在は1日平均11〜12gですが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、1日の目標摂取量として男性が8g未満、女性が7g未満としています。日本高血圧学会では高血圧を予防するための目標として、1日6g未満という数字を示しています。

食塩はパンやハム、プロセスチーズなど、あらゆる食品に入っています。特に醤油や味噌、ソースなどの調味料にはかなりの塩分が含まれています。調味料は毎日の食生活で口にする機会が多いので、食塩の摂取量を減らそうとする場合、薄味に慣れ、素材そのものの味を親しむようにするなどの心構えが求められます。

減塩の食生活

食塩の代わりに酸味や香辛料を使うと、塩分摂取量を抑えられるだけでなく、味のバリエーションが楽しめます。例えば、焼き魚は、塩を使わずにレモンをかけても美味しく食べられます。酢やレモンは優れたアルカリ性食品です。

減塩を成功させるポイントは、一品はこれまで通りの味付けをした料理を選び、他の料理を薄味にして、メリハリをつけることです。外食中心の生活になりがちな一人暮らしの方は、塩分が多いラーメン、丼物(カツ丼・天丼など)、そばなどに気をつけましょう。特にラーメンはスープだけで約5gの塩分が含まれているので、スープは残すようにしましょう。

野菜や果物に多く含まれるカリウムには、ナトリウムの排出を促進することで血圧の上昇を抑える働きがあります。塩分の多い食べ物を食べるときは、野菜や果物をサラダとして一緒に摂ると効果的です。

アルコールの過剰摂取も高血圧を招く原因の一つとなります

ビールやワイン、日本酒などの「お酒の飲み過ぎ」も高血圧の原因となります。少量のお酒は血圧によいとされますが適量を超えて飲むと、血管の拡張・収縮によって血圧の上下が激しくなり、それが毎日繰り返されているうちに慢性的な高血圧になってしまいます。

お酒の1日の適量

高血圧や高血圧が招くほかの生活習慣病を防ぐためにも、週に2日はお酒を一滴も飲まない「休肝日」を設けるようにしましょう。

お酒と高血圧の関係でもう一つ注意が必要なのは、フライドポテト、ソーセージ、塩辛、乾き物などの「おつまみ」です。おつまみは一般的に味付けが濃く、塩分がたくさん含まれているうえ、高カロリーです。せっかく食生活で「減塩」を心掛けていても、1回の飲み会で努力が水の泡ということも…。

仕事上のお付き合い等で酒席を避けられない場合は、翌朝の朝食で、塩分を排出するカリウムを豊富に含んだ果物や緑黄色野菜を摂るようにしましょう。飲んだ後に塩分無添加のトマトジュースを飲むのもよいでしょう。

個人差はありますが、一般的に節酒を2週間ほど続ければ血圧が下がるという報告があります。日頃からお酒をたくさん飲む人がアルコールを制限すると、一時的に血圧が上がることがありますが、じきに安定します。

血圧を下げる作用のある果物、野菜、きのこ類を積極的に摂りましょう

ここまで減塩生活で控えたい食品を見てきましたが、今度は積極的に摂りたい食品を見ていきましょう。朝の忙しい時間でも手軽に食べることができ、血圧を下げる作用が期待できるのはリンゴ、バナナなどの「果物」です。

リンゴは血圧を下げる食品の代表

リンゴは、体内の塩分を排出する働きがある「カリウム」、強い抗酸化力を持つ「ポリフェノール」や「エピカテキン」などの相乗効果によって、血圧の上昇を抑制し、血流の改善にも役立ちます。

そのほか、リンゴには調の働きを助ける「水溶性食物繊維」や「ペクチン」も豊富です。排便でいきむと血圧が急上昇するので、血圧が高い人はこれらの栄養素でお通じを改善したいものです。これらの栄養素は皮とその周囲に豊富なので、リンゴは皮ごと食べるのが理想です。

バナナは、塩分の排出を助ける「カリウム」をはじめ、抗酸化力の高いホルモン「メラトニン」、そのほか「食物繊維」も豊富です。バナナを朝に食べると、メラトニンの作用で夜の睡眠の質が高まることで血圧の安定につながります。

高血圧の人が、果物とあわせて積極的に摂りたいのが、高血圧と高血圧が招く生活習慣病を予防する「緑黄色野菜」です。なかでもトマトの赤い色素成分「リコピン」には強い抗酸化作用があり、ビタミンCやビタミンEとともに血管の老化を防ぐ働きがあります。種類が豊富なミニトマトは特に栄養価が高くなっています。

血圧コントロールに適した栄養がたっぷり、かつ低カロリーで満腹感も得られるのが「きのこ類」です。しいたけ、しめじ、まいたけ、エリンギには、体の中の塩分を排出することで、血圧コントロールを助ける「カリウム」が豊富です。

またこれらのきのこ類に含まれている「β(ベータ)グルカン」という食物繊維は、免疫力を高める効果があるので、血管の老化を予防してくれます。

継続は力なり!毎日のウォーキングで高血圧を予防・改善

血圧を下げるセルフケアを行ううえで、食生活での「減塩」とともに欠かせないのが、「運動」です。血圧改善に適しているのは、酸素を取り込みながらゆっくりとエネルギーを燃焼させる運動、すなわち「有酸素運動」です。

運動で血圧コントロール

なかでも、運動習慣のない人でも手軽に行うことができ、継続しやすいのが「ウォーキング」です。血圧を下げるためのウォーキングは、「ハァハァ…」と息が弾まない低強度の運動であることが大切です。血圧が高めの人が、ランニングなど強い運動をすると血圧の急上昇を招く危険性があるためです。

ウォーキングは、10分×3回に分けてもかまいませんので、できれば毎日30分〜は歩くようにしましょう。スピードは散歩よりも少し速い感じを意識します。1日に30分程度のウォーキングで血圧だけでなく多くの生活習慣病の予防にもなります。

ウォーキングを行う際は、時間帯に関係なく、喉が渇いたと思う前にこまめに水分を補給することが大切です。夏場は脱水状態になりやすく、血液が濃くなって血圧が上昇します。加齢とともに喉の渇きは感じなくなるので、ウォーキングの前後の水分補給はもちろん、歩いている間も飲みましょう。

最近はウォーキングの距離や時間、消費カロリーを毎日記録してくれるスマホの無料アプリが数多く登場しており、モチベーションの維持にピッタリです。なお、高血圧以外にも持病のある方は、ウォーキングなどの運動を始める前に必ず主治医に相談してください。

以上のように軽度の高血圧ならば、降圧薬に頼ることなく食事による「減塩」と「運動」だけでも血圧を下げることは十分可能です。


 
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