病院の検査の基礎知識

血糖値は糖尿病の有無、その治療や管理の指標として欠かせません

血糖とは、一般には血液中のブドウ糖のことを意味します。ブドウ糖はエネルギー源として利用されているため、血液中のブドウ糖(血糖)は一定の濃度に保たれています。そのコントロールを行っているインスリンが不足したり、あるいはインスリンの働きが弱くなったりすると、血液中に多量の糖が存在することになってしまいます。

家庭用の簡易血糖測定器です

血糖を調べると何がわかるのか?
血糖を調節しているインスリンが不足すると、血液中にブドウ糖があふれて高血糖になり、逆に過剰になると低血糖になります。どちらの場合も、血糖の異常な増減は体に悪影響をもたらします。血糖の検査は、高血糖の疾患である糖尿病の有無、その治療や管理の指標として欠かせません

血糖の値はどのように測定するのか?
前日の夕食後から絶食し、朝一番に空腹の状態で採血して、自動分析器にかけて測定します。血糖値は採取する血液によっても異なります。医療機関で検査する場合は静脈血を使いますが、動脈や毛細血管での血糖値は静脈よりも10〜20mg/dl高くなります。

したがって、糖尿病の人が自己血糖管理に用いる簡易血糖測定器で血糖値を測る(血糖自己測定=SMBG)場合は、医療機関の数値よりも高値になることを頭に入れておきましょう。

基準値

  • 空腹時血糖…70〜109mg/dl
  • 食後2時間血糖…140mg/dl未満

健康な人でも一日の血糖値は70〜130mg/dlの間を変動しており、食事の前と後では大きな差があります。食事をとると、炭水化物が吸収され、ブドウ糖となって血液中に出てくるので、食後の血糖値は食前よりも高くなります。

糖尿病の分類

検査結果の判定
早朝空腹時血糖値が126mg/dl以上、または食後血糖値が200mg/dl以上であれば、糖尿病の疑いが濃厚です。その場合はブドウ糖負荷試験(GTT)、併せて血中インスリン活性検査を行ないます。正常型・境界型・糖尿病型の判定を行ない、糖尿病型であれば、合併症の有無を調べるため、眼底検査尿タンパク、神経の検査も受けます。

なお、日本人間ドック学会の判定基準では、空腹時血糖値が110〜115mg/dlは判定Cで、生活習慣の改善と定期検査の必要があり、116〜125mg/dlは判定D2で、ブドウ糖負荷試験のほか、HbA1c(グリコヘモグロビン)グリコアルブミン1.5AGなどの血液検査が必要とされています。

内分泌内科の専門医

糖尿病をはじめとする生活習慣病の減少を目的とした特定健診では、空腹時血糖値(100mg/dl以上)は、腹囲などの数値と合わせて、保健指導の対象者を抽出するための基準のひとつとなっています。

高血糖値から考えられる、糖尿病以外の病気としては、クッシング症候群、膵炎、肝炎、肝硬変、末端肥大症などがあります。またストレス、暴飲暴食、肥満、運動不足などが原因で血糖値が上昇することもあります。特に肥満は糖尿病の最大の危険因子ですので、注意が必要です。

逆に血糖値が70mg/dlに満たない低血糖の場合、最も疑われる病気はインスリンノーマ(膵島腫瘍)です。膵臓の中でインスリンを分泌する細胞に腫瘍ができ、インスリンが大量に放出されて血糖値が異常に下がってしまう病気で、意識障害を引き起こす恐れがあります。

異常な場合に疑われること

  • 高値…糖尿病、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、膵炎、肝炎、肝硬変など
  • 低値…インスリンノーマ(膵島腫瘍)、糖原病、肝臓がん、ガラクトース血症など

治療のカギは日常生活!血糖コントロールに欠かせない食事療法

検査を受けて糖尿病と診断が確定したら、医師の指導のもと「食事療法」と「運動療法」を開始します。食事療法は、過食状態にある生活習慣を改めることで摂取カロリーを正常化し、血糖値をコントロールする治療法のことです。ここでいう「正常化」とは、健康的な生活をおくるうえで必要十分な食事量にするということです。

主治医の指示を守って治療

糖尿病と診断されると、血糖値のほか、年齢、身長、体重、合併症の有無などを基準として、1日の食事量を「1日○×カロリーを目標にしてください」という"指示エネルギー"が処方されます。これがその人に最適な1日の食事量となり、このカロリーを守るのが血糖コントロールの基本となります。

食事の献立や食品交換表の活用方法などは、糖尿病専門医が監修した専門書やレシピ本などが数多く出版されていますので、そちらを参考にしていただければと思いますが、大切なポイントは、栄養バランスに注意することです。

血糖値を気にせずに何でも食べている時は、各種栄養素の確保はそれほど難しくありませんが、食事療法では食事量が減るわけですから、無計画に摂取量だけ減らしてしまうと、栄養不足に陥ってしまうからです。

外食が多い方は、単品メニューではなく、スープ、サラダなどが付いたセットスタイルを頼むようにすれば、糖質、脂質、たんぱく質、野菜の全てが多少なりとも摂取できるので、栄養バランスがとりやすくなります。油の使用量が少ない、刺身定食や焼き魚定食などの和定食があれば理想的です。

外食は特に野菜が不足しがちなので、サラダやおひたしのような野菜料理をサイドメニューで加えたり、100%の野菜ジュースなどで補いたいものです。たんぱく質が不足しがちな場合は、牛乳などで補ってやるとよいでしょう。

栄養バランスに加えて、1日3食バランスよく食べることも大切です。1日の総摂取エネルギー量が同じでも、1食だけに集中して食べると血糖値の変動が大きくなるからです。「時間がない」「ダイエットをしている」などの理由で朝食や昼食などを1食抜くのも問題で、空腹の時間が長くなると、食後に血糖値が急激に上昇するだけでなく、体脂肪がつきやすい体になってしまいます。

ビールやワイン、日本酒等のアルコール類はカロリーが高く、血糖値を上昇させ、インスリンを大量に消費するため、血糖値が下がりにくくなることがわかっています。したがって、糖尿病の人は、原則としてアルコールは禁止です。なかでも、血糖コントロールが上手くいっていない人、薬物療法をしている人は厳禁です。

日本人の糖尿病の95%は、過食、肥満、運動不足などの不適切な生活習慣が誘因となる「2型糖尿病」ですが、その70%以上は食事療法だけで症状を改善することができます。インスリン注射や経口血糖降下薬が必要な場合でも、食事療法を疎かにしていると、その治療効果は期待できません。

有酸素運動は食事療法を補助することで血糖コントロールを改善します

食事療法がエネルギー源である糖の「入」を抑制するものならば、運動療法は糖の「出」を促進するものです。運動療法は、@運動をすることでエネルギー(糖)の消費量を増やす、A運動をすると筋肉がつくので、エネルギー(糖)を消費しやすい体になる、という効果があります。

心肺機能の向上にも役立つ

また運動を継続的に行うことで、血液中の中性脂肪悪玉コレステロール(LDL)を減少させ、善玉コレステロール(HDL)を増加させる、血圧を下げる、過剰な体脂肪を減少させるなどの効果も期待できるため、糖尿病だけでなく、同じく不適切な生活習慣に起因する脂質異常症や動脈硬化の改善や予防にもつながります。

運動療法に適しているのは、@全身の筋肉を使う、A体にそれほど負担をかけずに継続できる、B体力・年齢に応じて加減ができる、などの条件が当てはまる運動です。これらの条件にピッタリなのが、呼吸で十分な酸素を取り込み、時間をかけてゆっくりと力を出す「有酸素運動」です。例えば、ウォーキング(早足)、ジョギング、サイクリング、水泳などです。

運動療法を行う際は、必ず主治医に相談して、体力的に無理はないか、運動の強度は強すぎないか(狭心症や心筋梗塞、関節障害のリスク)などを確認しておきましょう。なかでも、糖尿病の合併症がある人が、自己判断で運動療法をはじめるのは禁物です。これらの食事療法と運動療法を組み合わせても血糖値が下がらない場合は、インスリン注射が行なわれます。

なお、タバコが血糖コントロールを邪魔したり、インスリンの感受性に悪影響を及ぼしたりすることは、直接的にはありません。しかし、喫煙で生じる血管へのダメージが膵臓などに悪影響を与えるため、糖尿病の発症誘因の一つとなっています。

喫煙で大きな問題となるのは、血管障害に代表される糖尿病の合併症(網膜症・腎症・神経障害・狭心症・心筋梗塞・脳梗塞ほか)のリスクを大きく上昇させることです。したがって、糖尿病になったら禁煙は絶対に必要です。

糖尿病は慢性の病気ですので、根気よく治療を続けることが大切です。食事療法、運動療法、インスリン療法で血糖コントロールをよくして合併症さえ防げれば、健康な人と同じように仕事もスポーツもできますので頑張りましょう。


 
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