貧血の有無、全身状態の把握に有効な「赤血球数」の測定
赤血球は、胸骨や大腿骨・頚骨の内部にある骨髄の幹細胞でつくられている血液の主成分で、体の各部の組織細胞へ酸素を運びこみ、二酸化炭素を運び出す働きをしています。赤血球の数が減ると必要なだけの酸素が送られなくなり、貧血状態になります。逆に数が多すぎると(多血症)、血液の流れが悪くなって血管が詰まりやすくなります。
赤血球数の検査はこれら貧血や多血症の有無を知るために行なわれますが、全身状態を把握する上でも有効なため、血液一般検査の基本項目のひとつとなっています。慢性的な倦怠感や息切れ、動悸で貧血が疑われる場合には、必ず行われます。
赤血球数はどのように測定するのか?
以前は、静脈などから採血し、抗凝固剤(EDTA塩)を加え、顕微鏡で単位容積(μl=mm3)あたりの赤血球を数えていましたが、現在は、採取した血液を自動血球計数器にかけて測定します。
このとき同時に、白血球数、血小板数、網状赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリットも調べることができ、貧血の診断に大切な赤血球恒数(赤血球指数)も算出してくれます。
赤血球恒数には次の三つがあり、これを検討することで貧血の種類を診断することができます。
- 平均赤血球容積(MCV)…ヘマトクリット÷赤血球数で算出するもので、赤血球の平均の容積、つまり大きさがわかります。
- 平均赤血球色素量(MCH)…ヘモグロビン量÷赤血球数で算出。1個の赤血球に含まれるヘモグロビン量の平均値が得られます。
- 平均赤血球色素濃度(MCHC)…ヘモグロビン量÷ヘマトクリットで算出。一定量の赤血球の中にどれくらいのヘモグロビンがあるかがわかります。
赤血球数の基準値(電気抵抗法)
- 男性…430〜570万/μl
- 女性…390〜520万/μl
幼児では600〜700万/μlと赤血球数が成人よりも多くなりますが、年齢とともに数値は下がり、15歳くらいで成人に近づきます。女性の場合、生理や妊娠のときに低値になります。運動や喫煙によって高値を示す傾向があります。
検査結果の判定
男女とも1μl(=1mm3)中の赤血球数が300万個以下の場合は、明らかな貧血と診断されます。
逆に貧血ほど多くはありませんが、赤血球の数が増えすぎて600〜800万個になることがあります。これは多血症(赤血球増多症)と呼ばれ、血液が濃くなって流れにくくなり、血管が詰まりやすくなります。
貧血は原因によっていくつかの種類に分類されますが、前述の平均赤血球容積(MCV)と平均赤血球色素濃度(MCHC)の数値を比較することによって、それを診断することができます。
- MCVが上昇しMCHCが正常…大球性正色素性貧血(悪性貧血といわれるものでビタミンB12や葉酸の不足が原因)。
- MCVもMCHCも正常…正球性正色素性貧血(赤血球が脊髄で作られない再生不良性貧血、赤血球が破壊される溶血性貧血など)。
- MCVもMCHCも低下…小球性低色素性貧血(鉄欠乏性貧血のことで、鉄の欠乏によって起こり、貧血の大部分を占める)。
日本人に最も多いのが、体を少し動かしただけで動悸がする「鉄欠乏性貧血」で、赤血球の材料である鉄分の不足が原因です。なかでも女性に多く、30代の女性の5人に1人が、鉄欠乏性貧血とされています。過度のダイエットなどによる栄養不足、生理の出血、子宮筋腫、腸からの鉄分の吸収が不十分などが原因となります。
また、胃がんや胃潰瘍、痔、尿路障害などが隠れていて、本人に気付かないうちに出血を起こしている可能性もありますので、中高年の男性や、閉経後の女性の鉄欠乏性貧血は注意が必要です。
異常があったらどうするか?
再検査で正確な数値を出し、それでも異常があれば精密検査を受けてその原因を明らかにすることが大切です。
鉄欠乏性貧血なら、栄養バランスの取れた食事を心がけ、鉄分の多い食品(豚・鶏レバー、牛肉、赤身魚、青背魚など)と緑黄食野菜を日常的にとるようにしましょう。また、ビタミンCやたんぱく質は、鉄の吸収率をアップさせるので、上手に組み合わせて摂取しましょう。
逆に、コーヒーやお茶に含まれるタンニンは、鉄の吸収を妨げるので、食事と時間をずらして飲むようにするとよいでしょう。
著しい貧血の場合は、悪性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血、白血病などの悪性の病気であることが多いため、白血球数、血小板数(この二つは赤血球数測定の際、いっしょに測定されています)、白血球分画、骨髄穿刺などの検査を行ないます。
異常な場合に疑われること
- 高値…多血症、脱水など
- 低値…各種貧血(鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血)、白血病など