不妊検査(初診で受ける基本検査)
夫婦で「赤ちゃんが欲しい」と希望しながらも、2年以上経っても妊娠の兆候がない状態を「不妊症」といい、日本の夫婦の約10%が不妊症だとされています。女性は年齢が上がるにしたがい卵子のもととなる卵胞の数が減少するため、妊娠能力が低下してくると考えられています。
女性の結婚年齢が年々上昇する傾向にあることから、以前に比べて妊娠しにくい傾向にあるといえます。そのため2年ではなく、通常の夫婦生活で1年経過しても妊娠がない場合でも、不妊症の可能性を考えて各種検査や治療を開始する医療機関も増えてきました。
不妊の原因は女性と男性が丁度半々となっており、女性側にも男性側にもいろいろな原因が考えられます。また、検査しても原因のわからない不妊も全体の約20〜50%を占めるとされており、現代医学ではまだ解明出来ていない部分も多くあります。
女性の不妊の原因には、@精子と卵子が受精しても、子宮に異常があって子宮内膜に着床しない「着床障害」、A卵管が詰まったり、狭くなっているため、精子と卵子が一緒にならなかったり、受精卵が移動できないなどの状態になる「卵管障害」、B卵巣の中で卵子が育たなかったり、育っても排卵できない「排卵障害」、C精子の通過をサポートする頚管粘膜に異常があるため、精子が子宮の中に到達できない「子宮頚管の精子侵入障害」などが挙げられます。
また、近年は子宮内膜症やクラミジア感染症が原因で不妊症となるケースも増えてきています。産婦人科で行う不妊症の基本的な検査は以下のようなものがあり、精密検査が必要と医師が判断した場合には、更なる検査が行われます。初診時に2ヶ月程度記録した基礎体温表を持参すると、話がスムーズに進められます。
問診
結婚年齢と年数、避妊期間、月経の状態、今までにかかった病気などを聞かれます。病院によっては問診表に記入します。不妊の原因を知るために、問診は重要ですので、正直に答えるようにしましょう。
内診
医師が外陰部や膣内の視診を行います。さらに膣に指を入れて子宮や卵巣の状態を調べ、子宮の位置や大きさ、子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症がないかどうかなどをみます。
超音波検査
初診時にはおもに、子宮の大きさや子宮の形態異常、子宮筋腫、子宮内膜症の有無などをみます。超音波検査ではほかに、子宮内膜の様子や卵胞の発育状態、排卵の時期などもわかるので、ほとんど受診のたびに行われます。
クラミジア検査
クラミジアに感染して卵管炎を起こすと、卵管が細くなって詰まったり、卵管の周囲が癒着して不妊になる可能性が高くなります。感染しているかどうか、以前の状態も含めて調べます。
基礎体温表
正常な排卵の有無を知るのに有効です。初診時に持参しない場合、多くの病院では基礎体温表をつけるように指導されるでしょう。ほかに、子宮頸がん、子宮体がんの有無を調べる子宮頚部・内膜細胞診や、子宮頚管の一般的な細菌検査を行う病院もあります。
体温の低温期に受ける検査
ホルモン検査
妊娠に関係するホルモンは、月経周期によって分泌される種類が違うので、体温の低温期(卵胞期)、排卵期、高温期(黄体期)に行われるのが一般的です。
低温期に調べるのは、おもに卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、プロラクチン、男性ホルモンについてです。方法は血液検査で、血中のホルモンの量を調べます。
子宮卵管造影(HSG)検査
子宮の中に造影剤を入れ、卵管を通り、腹腔内に流れたところでレントゲン撮影をします。子宮の大きさや形態異常、子宮筋腫、卵管のつまりなどがわかります。
検査は少し痛みをともないますが、信頼性は高く、また検査後、卵管の通りがよくなって、そのあと妊娠するケースがよくあるので、最近は早い段階で行う病院が多くなっています。治療を兼ねる不妊検査の代表的なものです。
卵管通気検査
子宮の入り口から炭酸ガスを吹き込み、圧力の変化をグラフに描くことによって卵管が通っているかどうかをみます。卵管が詰まっていると圧力は上昇します。卵管のつまりを調べるのに一番簡単な方法で。子宮卵管造影検査の代わりに行われます。
排卵期のころに受ける検査
子宮頚管粘液検査
子宮頚管の粘膜を膣鏡で見たり、粘液を採取して顕微鏡で調べます。粘液の量が少ないと、精子が子宮まで入りにくく、妊娠しにくいと考えられます。また、排卵日が近くなると、透明で糸を引くような粘液が増えるので、排卵日を予測するのにも行われます。
ヒューナー検査
排卵日ごろに性交をし、3〜12時間後に受診して頚管粘液を取り、頚管粘液の中で動いている精子の数を調べます。検査結果が悪い場合、精子に異常がある、頚管粘液に問題がある、妻に抗精子抗体がある、のどれかが不妊原因として考えられます。
超音波検査
きちんと排卵があるかどうか、子宮内膜に着床の準備ができているかどうかなどをみます。また、卵胞の大きさをはかり、排卵日の予測にも使われます。
ホルモン検査
卵胞ホルモン、黄体化ホルモン値を測定し、排卵日の予測を立てます。
不妊検査の関連ページ
基本検査、体温の低温期に受ける検査、精密検査
精密検査
不妊症の基本検査、体温の低温期に受ける検査、排卵期に受ける検査などを受け、さらに詳しく調べる必要があると判断された場合には以下に挙げる精密検査を受けます。
子宮鏡検査
子宮に異常があると疑われるとき、おもに低温期に行います。子宮の中に子宮鏡を入れ、モニターで子宮内部を観察します。子宮鏡には柔らかくて細いファイバースコープと、やや太い硬性鏡があります。硬性鏡を使ったときは、子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫の切除もできます。
抗精子抗体検査
ヒューナー検査の結果が悪い場合に行われます。採血した女性の血清の中に抗精子抗体がないか調べます。この抗体があると精子にくっついて、静止の動きを妨げてしまいます。不妊女性の数%に抗精子抗体があるといわれています。
ホルモン負荷検査
排卵障害の原因を詳しく調べる検査で、低温期に行います。基本検査として行っている病院もあります。特定のホルモンを注射し、採血してホルモン値の変化調べます。
子宮内膜の組織検査
高温期に、外来時に内診で子宮内膜の組織を採取し顕微鏡で調べます。着床ができる状態かどうかがわかります。
腹腔鏡検査
原因不明で不妊期間が長いときなどに行われます。へその下に2〜3箇所小さなあなを開け、腹腔鏡を入れて観察します。同時に鉗子(かんし)で子宮内膜症の癒着をはがすなど、治療もできます。
不妊治療は夫婦でよく話し合い、医師に相談したうえで行いましょう
不妊症の各種検査で原因が判明した場合には、それに合わせた不妊治療が行われます。治療には、「一般不妊治療」と「生殖補助医療技術(ART)」があります。
一般不妊治療は、超音波検査などで排卵の時期を予測して、セックスを行うタイミングを指導する「タイミング療法」、それでも妊娠できなかった場合に行われる「人工授精」の二つがあります。人工授精は配偶者の精子を用いる場合と第三者の精子を用いる場合があります。
原因にもよりますが、これらの治療を1〜2年継続して行っても妊娠に至らない場合は、生殖補助医療技術である体外受精や顕微授精などに進むのが一般的です。ただし、精子の状態が悪かったり、女性が40歳に近い場合には、一般不妊治療の時期を短縮して、高度な治療を開始することもあります。
いずれにしても不妊の検査や治療には、少なくない時間、費用、身体的・精神的な負担がかかります。夫婦でよく話し合い、不安や悩みは医師に相談し、納得してから治療を行うようにしましょう。
晩婚化で増える高齢出産のメリットとデメリット
女性が仕事を持ち、企業や官公庁で活躍するようになった今日の日本では、ライフスタイルの多様化もあり晩婚化が進んでいます。第一子出産の平均年齢は30歳となっています。また高齢出産も決して珍しくなく、40歳を過ぎてから出産を迎える人も増えています。
高齢出産では流産のリスクが高くなり、ダウン症候群に代表される胎児の染色体異常などが見つかる可能性も高まる傾向にあります。また、若い人に比べると、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症などになる確率も少し高くなりますが、統計的なものですので、個人差もあります。
高齢出産とされる年齢になると職場でもそれなりのポジションに就いていることが多いため、若い頃に比べると経済的に余裕を持って出産できますし、年齢を積み重ねたことによる精神的なゆとりも出産にはプラスに作用するはずです。
極端な暴飲暴食、喫煙習慣を控え、適度な運動、定期的な健診の受診といった健康的な生活を心掛けていれば、自信を持って出産に臨めます。
なお胎児の異常の有無を調べる検査に、出生前診断があります。出生前診断には、母体やお腹の中の赤ちゃんにも全く影響を及ぼさない超音波検査、僅かながらも流産のリスクがある羊水検査(長い針を腹壁、子宮壁、卵膜を通して刺して、羊水を採取して、染色体の異常を調べる)などいくつかの種類があります。
また、検査の結果、異常が認められた場合にどういう対応を取るかという問題もあります。出生前診断を受けるかかどうかについては夫婦で十分に話し合い、医師とも相談することが肝心です。