病院の検査の基礎知識

抗利尿ホルモン(ADH)の測定は脱水状態に陥る尿崩症の診断に不可欠です

視床下部で合成されたあと、脳下垂体の後葉に貯蔵されるホルモンのことで、バソプレンとも呼ばれています。腎臓からの水分の再吸収をコントロールすることにより、循環血液量(体を流れる血液の量)や血漿浸透圧を維持するなどの重要な役割をはたしています。

ADH

例えば、スポーツなどで大量の汗をかいたり、脱水状態になると、下垂体からの抗利尿ホルモンの分泌量が増え、尿量が少なくなり、水分が失われないように働きかけます。逆に、水をたくさん飲むと抗利尿ホルモンの分泌が抑制され、腎臓からの水分の再吸収が減り、尿量が増えるようになります。

抗利尿ホルモンの測定は、体内の水分がどんどん排泄され、脱水状態に陥る尿崩症の診断に欠かせません。また、視床下部や脳下垂体後葉の異常が疑われる場合にも行われます。

抗利尿ホルモン(ADH)はどのように測定するのか
血液を採取して測定します。通常は、血漿浸透圧も測定して診断します。なお、アセトアミノフェン、コリン作用薬、エストロゲン、経口血糖降下薬、三環系抗うつ薬などは、測定値に影響を及ぼしますので、これらの薬を服用している方は、あらかじめ医師に申し出てください。

基準値
0.3〜4.2pg/ml

検査結果の判定
ADHが高値を示す場合、非常に高度な脱水などが考えられます。また、血管内の水分が過剰にもかかわらず、ADHの分泌が抑制されない抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)や、下垂体以外にADHの分泌を促す腫瘍ができている場合にも高値になります。

腎臓になんらかの異常があって起こる腎性尿崩症がある場合も、それを正常な状態にしようとADHが過剰に分泌されてしまいます。

逆に、中枢神経の異常で起こる中枢性尿崩症の場合はADHは低値となります。また、心因性多飲(真理的な問題で水分を多量に摂取してしまう状態)などで水分を過剰摂取すると低下します。視床下部になんらかの異常があってADHの分泌量が低下する場合もあります。

異常があったらどうするか
血液検査や尿量尿比重クレアチニン電解質などのさらに詳しい腎機能・代謝機能の検査を行ないます。また、ADHは下垂体以外の部位、特に肺がんがあるときに異常分泌されますので、胸部X線検査気管支内視鏡検査などが行なわれる場合もあります。

SIADHの場合は、水分摂取を制限して、原因疾患を特定して治療をします。水分摂取を制限しても改善がみられないときは、デメクロサイクリンやサイアザイド系利尿薬など、腎臓の抗利尿ホルモンの作用を減らす薬を投与します。2006年には、フィズリンという治療薬が国内でも承認されています。

中枢性尿崩症の治療は、不足しているADHに代わって、合成して作られたADH製剤であるDDAVP(デスモプレシン)を鼻の粘膜から投与(経口では効果がありません)することにより尿量を減少させることができます。

異常な場合に疑われること

  • 高値…抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、腎性尿崩症、異所性産生腫瘍など
  • 低値…中枢性尿崩症、心因性多尿など

 
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